経済八正道

仏教における「八正道(はっしょうどう)=苦を滅するための八つの具体的な方法」にちなみ、経済の諸問題を解決するための八つの具体的な方法(見方・考え方・方針)をまとめました。

1. 不況は苦である
2. 緊縮政策は人道に対する罪である
3. 「経済=環境破壊」という見方は間違っている
4. 経済学の知識は重要である
5. 短期と長期を区別する
6. 短期的には雇用が重要である
7. 長期的には労働の再配分が必要となる
8. 超長期的には経済の民主化を目指す

1.不況は苦である

 ひとはひとりでは生きていけません。そこで私たちは世界中のひとびとと互いにモノや労働をやりとりしながら生活を営んでいます。これを私たちは「経済」と呼んでいます。経済という言葉は経世済民(よをおさめたみをすくう)が略されたもので、経済はひとびとが幸福に暮らすための大前提です。経済活動がうまくいかないと、解雇されて仕事を失ったり、就職が困難になったり、事業が失敗して破産したり、それらを理由に自殺したりするひとびとが増えます。こうしてひとびとが苦しみを余儀なくされること、これが「不況」です。この不況をどのように克服するか、それは、平和や環境を大切にしようとする立場から考えても最重要の課題といえます。

 

2. 緊縮政策は人道に対する罪である 

 不況という問題に対して、しばしば緊縮策がとられてきました。ここでは、緊縮策とは要するに、「政府赤字になるのはよくないから、政府は支出を減らそう」とか「増税しよう」とか、「インフレは良くないからお金は増やさないようにしよう」といった政策志向を指すこととします。貧しいひとびとの味方であるべき政治勢力ですら、しばしばこの考え方を肯定しますが、これは誤りです。第一に、緊縮は人を殺します。90年代末の韓国でも、最近のギリシャでも、国際通貨基金(IMF)が強要した緊縮策によって、病気での死亡率や自殺率が上昇しました。他方、緊縮策をはねのけたアイスランドでは、経済悪化にも関わらず死亡率が上昇していません。第二に、不況に対して緊縮策は効果がありません。世界的な経験では、金融緩和をせず、財政支出も増やさず、「痛みに耐えてがんばった」としても、景気の回復にはつながらず、財政赤字もかえって増加します。過去の小泉政権はこの例といえるでしょう。また、現在の民進党の方針なども緊縮路線であり、大転換が必要であると私たちは考えます。

3. 「経済=環境破壊」という見方は間違っている

 言うまでもなく、私たちの暮らしや経済は自然環境の中で営まれます。自然環境を破壊するような事業を本来「経済活動」などと呼ぶことはできませんし、天然資源やエネルギーを大量に消費しながら、野放図な経済成長を目指すことも愚かなことです。しかし一方で、現在の不況を「脱成長は良いことだ」と言って肯定することは、現実の、多くのひとびとの苦しみから目をそむけていることになります。不況対策と持続可能な発展は次元の違う問題です。環境への悪影響を減らしながら、モノや労働のやりとりを活性化させることは可能です。環境を良くするためには環境規制や環境税などの施策が必要なのであり、不況を長引かせることや「脱成長」を環境問題の解決策とすべきではありません。 

4. 経済学の知識は重要である

 平和や環境を大切にしようと努力されている方々の中には、経済が平和や環境を脅かしていると考えて、経済学そのものに反発を示す方も少なくありません。しかし、民主主義社会において、平和や環境を守るためには、それを目指す政党が支持を集め、選挙に勝利して政権をとらねばなりません。そもそも、経済はひとびとの生きる基盤なのですから、「景気」が有権者の最大の関心事であることは、むしろ当然です。平和や環境を大切にするためにこそ、経済学の知識をつけ、不況を解決する力をつける必要があります。逆に、戦争や環境破壊を推し進める勢力が不況対策を成功させ、政権を盤石化させてしまうことは恐ろしいことです。不況対策の裏付けとしては、主に、ケインズ派の経済学者たちの最新知見が有効と考えられます。新自由主義者の経済学は多くの場合、不況対策としては有害です。

 

5. 短期と長期を区別する

 経済問題を考える上で、短期と長期の問題を区別することは不可欠です。短期の問題とは、金融危機などの結果、ひとびとが将来に不安を抱き、総需要が減少してデフレが起こり、失業が増えると言った問題を指します。それに対し、長期の問題とは、総需要が旺盛であるにも関わらず、社会の生産力が伸びず、総供給が制約されることによって、モノ不足とヒト不足でインフレが起こり、私たちの豊かさが増進しないといった問題を指します。現在の不況の原因は、生産性の伸びが衰えていることだと本気で説いている経済学者もいますが、デフレが起こっている以上、その説明は明らかに間違いです。

6. 短期的には雇用が最も重要である

 短期的な問題とは経済的調整が不完全な状況のことです。簡単に言えば不況のことです。デフレが続き、雇用が増えず、賃金が伸びないのは、総需要が総供給を下回っていることが理由です。この場合、雇用を増やすためには、中央銀行が通貨発行量を増やす「金融緩和政策」と、政府が財政支出を増やし減税を行う「拡張的財政政策」が有効です。いわば金融緩和政策は雇用促進政策なのです。財政政策としては、ひとびとのニーズがあるにも関わらず民間企業ではうまく事業化できない保育や介護などの雇用を創出することが求められます。不況期に政府赤字を恐れる必要はありません。緊縮策をとれば不況が長引いてかえって財政赤字が増加します。不況時に消費税増税は不要である以上に有害です。日銀が国債を引き受けるような政策をとってもかまいません。一方、もしデフレを脱却してインフレになれば、それを抑える政策はいくらでもあります。

7. 長期的には労働の再配分が必要となる

 デフレから適度なインフレに転換できれば、ひとまず不況を脱したと考えられます。この時、総需要が総供給に追いついて、失業問題はほぼ解決してヒト不足が生じているでしょう。経済問題は短期の問題から長期の問題へと移っているでしょう。そこでは必要の少なくなった経済部門から、必要性の高い経済部門へと、労働力を移動させる政策(税制など)が必要となります。将来的には保育や介護などが重要な経済部門になるでしょう。仮に消費増税が意味を持つとしたら、この段階、すなわち消費財の生産部門からこうした部門に労働力を移すために、消費を抑制する必要に迫られたときでしょう。とはいえ、もっと別の部門(たとえば生産財や奢侈財の部門)から労働を移すことを促す税制(法人税や資産課税の強化)が優先されるべきとも考えられます。また、労働力の移動がひとびとの生活に耐え難いダメージを与えずに行われるためには、失業手当の充実や、ベーシックインカムの導入など、他の部門に移る労働者の生活を保障する施策が必要です。

8. 超長期的には経済の民主化を目指す

 短期・長期をつらぬき、その先にまで続くいわば「超長期的」な課題として、そもそも、私たちが雇われて長時間働かなければ生活していけないという、根本的な問題にも取り組まなくてはなりません。現在でも情報通信技術(ICT)や人工知能(AI)が発達し、私たちが長時間働かなくても経済が成り立つような方向へと変化が進んでいます。これは、私たちの自由を拡大する可能性もありますが、現在のシステムでは、人減らしや解雇を促進し、不況を長引かせる恐れの方が大きいでしょう。私たちが企業に従属するのではなく、自分で生き方や働き方を決められる経済を実現すること、それが経済の民主化です。企業に雇われなくても生きていける、ひとびとが世の中をもっとよくするために自由に働く、このような生き方、働き方を容易にするために、労働時間をさらに短縮するとともに、社会的企業や協同組合的事業の発展を促す施策が求められます。ここでも、ベーシックインカムは大きな役割を果たすでしょう。