<レポート 013> デフレ脱却時の「金利上昇のリスク」に関する統合的シミュレーション

本会共同代表朴勝俊関西学院大学教授によるレポートです。

<要約>

本稿では、デフレ脱却時の金利上昇によって生じる、いわゆる「出口のリスク」について、シンプルな国債評価額シミュレーションモデルを用いて、政府・日銀・民間の三部門について同時に定量的な検討を行った。日本経済を模した簡便なモデルによって、日銀と民間が保有する国債が、デフレ脱却に伴う金利上昇のせいでどの程度の評価損を出すのか、名目経済成長によって民間の可処分所得と政府の税収がどの程度増えるのか、を同時に把握したのである。その際、名目金利は名目成長率に等しいと仮定した。

その結果は以下のとおりである。まず政府は、デフレ脱却に伴って新規国債に対して最終的に3%のクーポン金利を支払わなければならなくなると想定されるが、それは税収の増加分から支払うことが可能であり、財政破綻は起こらない。

日銀はデフレ脱却期に、最大およそ40兆円の国債評価損を計上する。しかしこれはあくまで帳簿上の損失である。他方、金利が上昇すると、新発債の保有から日銀は着実に金利収入(貨幣発行益)を得ることになる(これは国庫納付金の形で政府に返納される)。

民間については、何よりも名目GDPの成長のメリットが、国債評価損や、納税額の増分を補ってあまりあるほど大きい(名目可処分GDP増分の、15年間の累計額は約1515兆円)。物価上昇を勘案しても実質可処分GDPは相当額のプラスとなる(累計516兆円)。デフレ脱却時の金利上昇によって、民間部門が大きな損失を蒙ることはない。

これらの結果を総合して言えることは、「出口」における「日銀破綻」、「財政破綻」、「民間の大損失」という話は、怪談話に過ぎないということである。デフレ脱却に伴う金利上昇によって、日銀と、政府と、民間がともに破綻の瀬戸際に追い込まれるということはあり得ない。それでも、もし国債の評価損が問題とされるようならば、日銀も民間経済主体も、資産として国債を帳簿に金額を記載する際に、額面額で記載することを許せば、懸念や混乱はほぼ根絶できるであろう。

レポート本文 report-013

シミュレーションを実施したエクセルファイル report-013Sup