月別アーカイブ: 2022年6月

<レポート017> PEP DISCUSSION PAPER 2022-1 朴勝俊「タマゴが先かニワトリが先か? : 政府支出と GDP のグレンジャー因果性に関する検討」

デービッド・アトキンソン氏が、政府支出とGDPの因果の方向性に関して、政府支出がGDPを決めるとする議論を批判し、「政府支出を増やせば経済は成長する」という主張は間違いだと主張しています。

それに対して、本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授が批判的検討を試みた論文を書きましたので、本会のディスカッションペーバーとして公表します。
以下、以下、本稿冒頭の「要約」部分を引用します。

要約 各国のデータに基づいて、政府支出の伸び率と、名目・実質GDPの伸び率の間には極めて強い相関関係が指摘されていたが、その因果の向きについて議論があった。本稿ではまず、簡単な理論シミュレーションモデルを構築して、因果の方向が明らかに政府支出から名目GDPに向かっている場合にも、その逆の場合にも、実際に観察されたものと似た散布図が描けることを示した。その上で、OECD加盟国38か国の1980年から2021年までのデータを用いて、一般政府支出と名目GDP、およびGDPデフレータの間のグレンジャー因果性を分析したところ、国によって時期によって結果が大きく異なったが、名目GDPから政府支出への因果性を示唆する結果が多かった。しかし政府支出の統計もSNAと同様に発生主義で作られるため、数値が記録される時点は発注の時点より遅れることになり、「見かけ上の因果性」が観察される可能性がある。そこで、政府支出のリード変数(後の時点の変数)をとってグレンジャー因果性の検定を行うと、結果が変わりうることが分かった。この点についてより詳細に検討するために、日本のGDP統計の四半期データ(1994年から2021年)を用いたところ、2008年以降の日本では、名目GDPから政府支出(政府固定資本形成あるいは政府消費)への影響が確認されることは全くなく、逆に説明変数として政府支出のリード変数を用いた分析では、政府支出を増やすと総需要が増える関係にあることが明らかとなった。

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economic policy report 017

* この、”「政府支出を増やせば経済は成長する」という主張は間違いだと主張しています” という部分は、当初、”政府支出を増やしてもGDPは増えないと主張しています” としていましたが、この朴論文の中にある表現に改めました。誤解を与える表現の仕方をしたことにつき、編集者として、アトキンソンさんにも朴さんにもお詫びもうしあげます。(2022年6月30日, 松尾匡)

<レポート016> 日本の物価上昇に対する、エネルギー価格上昇と円安の影響に関する試算

本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授が、日本の物価上昇に対して、海外でのエネルギー価格上昇の影響と円安の影響がそれぞれどのくらいあるのかを試算しました。以下、本稿冒頭の「要約」部分を引用します。

エネルギー経済研究所の産業連関分析試算を参考に、2019年を基準に、2022年5月ないし6月までのエネルギー価格および円安が、消費者物価指数(生鮮食品除く総合)に与えた影響を試算したところ、これらの効果を合わせた物価上昇分のうち、約28%が円安によるもので、約72%がエネルギー価格の上昇によるものと考えられる。したがって、利上げによって円安を是正しても、物価押し下げ効果は限定される。産業連関分析は、コストを完全に価格に転嫁するという想定に基づくため、実際の物価上昇は、生産者によるコスト吸収に応じて抑えられる。

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economic policy report 016