投稿者「economicpolicy」のアーカイブ

<レポート021> PEP Discussion Paper 2024-001 朴勝俊 2000年以降の日本に関する為替レート変化の貿易収支改善効果に関する検証

本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授によるディスカッションペーパーです。ここでは、2000年以降の日本の年次時系列データを使って、為替レートが貿易収支に及ぼす影響を計量分析しています。

それによれば、実質実効為替レートが円高になると、当期の名目貿易収支への影響はほとんどないが、二期後の名目貿易収支を減少させる(赤字を増やす)効果があることが実証されたとのことです。ただし、名目為替レートが円高になったときに、名目貿易収支を減少させる(赤字を増やす)効果があることを示す「マーシャル=ラーナー条件」を推計したところ、短期的にも長期的にも満たさないとの結論が得られたとのことです。

この問題をめぐる既存研究がよくサーベイされており、また、さまざまな場合分けをして計量分析していますので、この問題に関心を持つ人には有益なペーパーとなっていると思います。

私見では、このかん輸出産業の供給ボトルネックが問題になっていたので、輸出については、円高になって減らすときの係数と、円安になって増やすときの係数が違うのではないかと思います。しかし、それを分けて計量することは、サンプル数の問題から困難ではあるとは思います。

(松尾匡, 本会共同代表)

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economic policy report 021

経済概観2024年2月号

ひとびとの経済政策研究会のメンバーの朴勝俊さんが監修し、私、松尾匡も検討に加わったもとで、れいわ新選組の長谷川羽衣子さんが報告した、2024年2月1日付の経済概観をここに公表します。

インフレはおさまりつつあり、円相場は円高方向に向かうことが見込まれる。貿易・サービス赤字は解消に向かっている。他方で、GDPギャップは需要不足側に戻り、雇用・求人倍率の伸びも頭打ちになり、賃金は上昇しているが物価に追いついていない。倒産件数は急増している。——というものです。

私見では、総じて景気回復が民衆に恩恵が及ぶ前に頭打ちになっている段階と見られます。これが単なる踊り場なのか、後退につながるのかはアメリカ経済次第というのが、現政権のもとでの現状のように思えます。

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keizaigaikan2402.pdf

<レポート019en> ECONOMIC POLICY REPORT2023-002[EN] PARK Seung-Joon, “To default or not to default? Differences in government bonds of major countries with monetary sovereignty and of EU member states — Explanation with 4 sectors balance sheets –”

この前に投稿いたしました、本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授による一般向け解説、「日本の自国通貨建て国債のデフォルトはありえないとはどういうことか——バランスシートで理解する貨幣と財政(入門編)」を、著者本人が英訳(基本的に機械翻訳をもとに)しましたので、ここに掲載いたします。冒頭のAbstractを引用しておきます。

The Ministry of Finance Japan (MOFJ) said that default on government bonds denominated in the local currency of advanced economies such as Japan and the US was inconceivable. We try to explain why is that, somewhat in different way from MOFJ’s explanation. This paper has examined the creation and extinction of money and the redemption and refinancing of government bonds in the framework of the four-sector balance sheet. The government spending generates reserves in the financial sector, which can in effect only be used to purchase the next Japanese government bonds. Since there is no other use for them, this means that new government bonds can always be sold and maturing bonds can always be refinanced with moderate interest rate. This is the key advantage of monetary sovereignty. On the other hand, like an Euro member state, if a country adopts a common or foreign currency and abandons its monetary sovereignty, it may be unable to refinance its government bonds and be forced to default, as euro reserves acquired by the financial institutions of the euro area as a whole through the spending of a member state are not necessarily used to purchase the state’s bonds.

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economic policy report 019en

<レポート020> PEP Discussion Paper 2023-03 朴勝俊 「生産性を上げる努力」は経済成長にはつながらない~2011年以降の日本の付加価値労働生産性の要因分解~

本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授によるディスカッションペーパーです。ここでは、「法人企業統計調査」から得られた2011年から2021年までの日本企業のデータを使って、実質付加価値の労働生産性の変化を、付加価値率、従業員数、売上高の変化に要因分解して、企業規模別に特徴を検討しています。

それによれば、全産業では総じて売上高減少が生産性の低下要因となっており、不況(総需要不足)が付加価値生産性低迷の原因だったことが示唆されれています。また、大企業は付加価値率を高めたことが生産性低下の阻止要因になっている一方、小企業は付加価値率を下げてたことが生産性の低下要因になっています。著者はここから、大企業が中小の下請け企業に値下げを強いてきた可能性を読み取っています。また、製造業では従業員数の削減が生産性向上に寄与してきたのに対して、非製造業では一貫して従業員数は増加してきたことも指摘されています。

総じて、中小企業のいわゆる生産性停滞の原因は、努力不足にあるのではなくて、不況や大企業による圧迫に原因があることが示唆されるファクトファインディングとなっています。

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economic policy report 020

<翻訳> エリザベス・ウォーレン、バーニー・サンダースほか「米国議会左派議員10人のFRBパウエル議長に対する書簡(2023年5月1日)」

ウォーレン、サンダースらアメリカの10人の民主党のプログレッシブ派・リベラル派の連邦議会議員が、5月2日・3日の、連邦準備制度理事会(Fed, アメリカの中央銀行)の連邦公開市場委員会(FOMC, 金融政策決定機関)会合に先立ち、同理事会のパウエル議長に対して、利上げの停止を訴える書簡を送りました。本会共同代表の朴俊勝関学教授がその全訳を行いましたのでここに掲載します。

サンダースらはここで、パウエル議長の利上げ計画を、失業者を増やすことでインフレを抑えようとする試みだとし、
・インフレはすでにピークを越え、銀行破綻もインフレ鎮静要因となる。
・Fedが狙う1%の失業率上昇は1%にとどまらないのが歴史の常だった。
・目下のインフレは供給サイド要因によるもので、金融政策では抑制できない。
・利上げで不況になれば中小企業や弱い立場のものが真っ先に打撃を受ける。
といった理由で、利上げを思いとどまるよう主張しています。

日本の現状から見れば、アメリカの経済状況ははるかに需要が拡大していて、利上げの処方箋の適用範囲に入っているようにも見えるところですが、現地の左派からはなお、利上げによる需要抑制での失業や中小企業倒産のリスクが大きく認識される状況にあるわけです。
そうすると、まだまだ所得が停滞し需要が不十分な日本では、利上げの選択肢などますますあり得ないということになるでしょう。インフレはアメリカよりもはるかに純粋に供給側要因によるもので、金融政策では抑制できないのに、なおも利上げでそれを抑えようというのは、アメリカで危惧されるよりもはるかに、失業や中小企業の倒産を増やし、弱い立場の者に多大な犠牲がかかることをいとわない政策であるということになります。
しかるに日本においては、比較的大きなリベラル派や左派の政党が、この書簡の主とは逆に、利上げでインフレを抑制することを主張しているところに、実にやりきれない現実があると感じています。
(松尾匡)

SandersWallenLetterToFebFed.pdf

<レポート019> PEP Discussion Paper 2023-02 朴勝俊 日本の自国通貨建て国債のデフォルトはありえないとはどういうことか——バランスシートで理解する貨幣と財政(入門編)

本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授による一般向け解説です。政府、日銀、民間金融機関、民間非金融機関の四部門についてバランスシートを示し、さまざまなケースでおカネがどのように生まれ、どのように消滅するのかを説明しています。検討されているケースは次の目次に示す通りで、それぞれ、順を追って四部門の間のお金を動きを示した上で、当初と比べた最終的な結果を検討しています。
(※ 表10の見出しが間違っていましたので、訂正しアップロードしなおしています。2023年7月23日)
(※ またいくつか間違いを見つけましたので、訂正しアップロードしなおしています。また、別記事のとおり、英訳をアップロードしています。2023年9月15日)

目次
1. はじめに
2. 四つの経済部門の金融資産・負債
3. 財源とは何か? - 政府預金の調達 -
 3.1 徴税
 3.2 国債発行(民間金融が日銀当座預金を十分に持っている場合)
 3.3 国債発行(民間金融が日銀当座預金を全くもっていない場合)
 3.4 国債または政府短期証券を日銀が引き受ける場合
4. 政府支出
5. 財政赤字
6. 国債の償還
7. 国債の借り換え
8. 金利の支払い(徴税による支払い)
 8.1 徴税による金利支払い
 8.2 新規の国債発行による金利支払い
9. 日銀券の引き出し
10. 日銀貸し付けによるマネタリーベースの増加
11. 銀行が貸し付けをするとマネーストックが増える
12. ユーロ加盟国はなぜ財政破綻しうるのか
13. 結論

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economic policy report 019

<レポート018> PEP Discussion Paper 2023-01 朴勝俊 「管理通貨制度において貨幣は政府支出によって生まれ徴税によって消滅する」という事実を考慮したIS-LM モデルの比較静学分析

本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授が、民間投資や赤字財政支出に際しての信用創造や徴税によるマネーストックの減少を考慮にいれて、これらの効果の有無で場合分けして、財政支出や増税、金融政策の効果を比較静学分析したディスカッションペーパーを執筆したので、ここに公表します。

<要約>
 管理通貨制度においては、貨幣(マネーストックすなわち現金と銀行預金の合計)は政府支出によって生まれ、徴税によって消滅する。したがって、IS-LMモデルにおいて拡張財政政策がなされる場合には、たとえ政府が金融機関に対して新規国債を売る場合であっても、おのずと貨幣が増えることになる。また、企業が銀行から融資を受けて設備投資をする際には、いわゆる信用創造(銀行の融資債権と、貨幣の一種である預金負債が両建てで増えること)によって貨幣が生まれる(逆に融資が返済されると貨幣が消滅する)。このことは、財政・金融政策の結果として金利が変化した場合に、銀行借り入れによる民間設備投資が追加的に増減するならば、政策の効果を増幅させることを意味する。本稿はこのよう観点から慎重に場合分けを行い、比較静学分析の計算結果を整理した。

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economic policy report 018

<レポート017E> PEP DISCUSSION PAPER 2022-1E PARK Seung-Joon, “Eggs first or chickens? A re-examination of Granger causality between increase in government spending and GDP growth”

この前に投稿いたしました、本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授による、デービッド・アトキンソン氏への批判論文「タマゴが先かニワトリが先か? : 政府支出と GDP のグレンジャー因果性に関する検討」を、著者本人が英訳しましたので、ここに掲載いたします。冒頭のAbstractを引用しておきます。

Abstract
Based on data from various countries, a strong correlation was noted between the growth rate of government expenditure and the growth rate of nominal and real GDP, but there was some debate about the direction of causality. In this paper, a simple theoretical simulation model was first constructed to show that scatter plots similar to those actually observed can be drawn in either direction we assume the causality. We then tested Granger causality between general government expenditure, nominal GDP and GDP deflators using data from 1980 to 2021 for 38 OECD countries, and found that the results differed significantly from country to country at different time periods, with many cases suggesting a causality from growth to government expansion. However, as government expenditure statistics such as in the SNA are produced on an accrual basis, the point in time when the amounts are recorded may be later than when the orders are placed, which means that ‘spurious causality’ may be observed.
Therefore, we tried using the lead variable (a variable of later period) of public spending to test for Granger causality, and found that the results could change. To examine this point in more detail, we used quarterly data from the Japanese GDP statistics (1994-2021), namely nominal GDP, government fixed capital formation and government consumption. We found that in Japan since 2008 there was (practically) no causal relationship in neither direction without lead variables. However, with lead variables of government expenditure, one-way Granger causality from public spending to nominal GDP was observed.

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economic policy report 017E

<レポート017> PEP DISCUSSION PAPER 2022-1 朴勝俊「タマゴが先かニワトリが先か? : 政府支出と GDP のグレンジャー因果性に関する検討」

デービッド・アトキンソン氏が、政府支出とGDPの因果の方向性に関して、政府支出がGDPを決めるとする議論を批判し、「政府支出を増やせば経済は成長する」という主張は間違いだと主張しています。

それに対して、本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授が批判的検討を試みた論文を書きましたので、本会のディスカッションペーバーとして公表します。
以下、以下、本稿冒頭の「要約」部分を引用します。

要約 各国のデータに基づいて、政府支出の伸び率と、名目・実質GDPの伸び率の間には極めて強い相関関係が指摘されていたが、その因果の向きについて議論があった。本稿ではまず、簡単な理論シミュレーションモデルを構築して、因果の方向が明らかに政府支出から名目GDPに向かっている場合にも、その逆の場合にも、実際に観察されたものと似た散布図が描けることを示した。その上で、OECD加盟国38か国の1980年から2021年までのデータを用いて、一般政府支出と名目GDP、およびGDPデフレータの間のグレンジャー因果性を分析したところ、国によって時期によって結果が大きく異なったが、名目GDPから政府支出への因果性を示唆する結果が多かった。しかし政府支出の統計もSNAと同様に発生主義で作られるため、数値が記録される時点は発注の時点より遅れることになり、「見かけ上の因果性」が観察される可能性がある。そこで、政府支出のリード変数(後の時点の変数)をとってグレンジャー因果性の検定を行うと、結果が変わりうることが分かった。この点についてより詳細に検討するために、日本のGDP統計の四半期データ(1994年から2021年)を用いたところ、2008年以降の日本では、名目GDPから政府支出(政府固定資本形成あるいは政府消費)への影響が確認されることは全くなく、逆に説明変数として政府支出のリード変数を用いた分析では、政府支出を増やすと総需要が増える関係にあることが明らかとなった。

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economic policy report 017

* この、”「政府支出を増やせば経済は成長する」という主張は間違いだと主張しています” という部分は、当初、”政府支出を増やしてもGDPは増えないと主張しています” としていましたが、この朴論文の中にある表現に改めました。誤解を与える表現の仕方をしたことにつき、編集者として、アトキンソンさんにも朴さんにもお詫びもうしあげます。(2022年6月30日, 松尾匡)

<レポート016> 日本の物価上昇に対する、エネルギー価格上昇と円安の影響に関する試算

本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授が、日本の物価上昇に対して、海外でのエネルギー価格上昇の影響と円安の影響がそれぞれどのくらいあるのかを試算しました。以下、本稿冒頭の「要約」部分を引用します。

エネルギー経済研究所の産業連関分析試算を参考に、2019年を基準に、2022年5月ないし6月までのエネルギー価格および円安が、消費者物価指数(生鮮食品除く総合)に与えた影響を試算したところ、これらの効果を合わせた物価上昇分のうち、約28%が円安によるもので、約72%がエネルギー価格の上昇によるものと考えられる。したがって、利上げによって円安を是正しても、物価押し下げ効果は限定される。産業連関分析は、コストを完全に価格に転嫁するという想定に基づくため、実際の物価上昇は、生産者によるコスト吸収に応じて抑えられる。

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economic policy report 016