年金問題についての声明

誰も置き去りにしない社会保障制度の実現を
「老後資金2000万円不足」騒動を受けての声明

ひとびとの経済政策研究会

 「老後資金が2000万円不足」とした、金融審議会の専門家の報告書をめぐる騒動は、安倍首相や麻生外相はもちろん、金融庁の良識にも疑問を抱かせるに十分でした。

2000万円の根拠はたんに、2000万円以上の貯蓄がある「平均的」な(実際には一般人よりもはるかに富裕な)高齢夫婦無所得世帯が、年金などで毎月20万円の収入を得て、6万円ほど貯蓄を取り崩しながら26万円程度の支出を行っている、というだけの家計調査データです。「不足」とは関係ありません。しかしこの報告書は、このような数字を用いて老後の不安を煽って、ひとびとに民間の金融商品への貯蓄を誘導するようなひどいものです。これを受けてまず麻生財相がニュースで伝えた「2000万円ためろ」という意味のメッセージも、まさに民間金融機関の利益誘導そのものでした。

デフレ脱却が実現していない現状で、年金不安を煽って貯蓄を奨励すれば、消費が減退して景気がさらに悪化することは目に見えています。さらに、民間金融商品による老後資金の貯蓄は、政府が担う年金・社会保障制度と比べても決して安全で有利なものとは言えません。

しかし、GPIFの年金資金運用で多額損失が生じているということも同時にメディアによって針小棒大に伝えられ、年金不安がさらに増幅されています。若年層の中には、自分たちが収めた年金は絶対に自分たちに戻ってこないと信じている人もたくさんいます。このような状況は不幸なことです。

積立金の運用は副次的な問題にすぎません。現在の年金制度は、賦課方式で運用されています。勤労世代が毎年払い込んだ年金保険料が、その年の内に、高齢世代に支払われる制度です。この制度がある限り、適切に調整すれば、制度が破綻することはありません。そもそもどんな制度をとろうが、働いている人が生産した財やサービスを働いていない人が受け取るという本質に違いはありません。日本の労働力人口の総人口に占める割合は長期にわたりほぼ半分で不変で、近年はかえって増えています。女性と高齢者の自発的な労働力化でこの割合を維持することは可能です。あとはうまくまわるように制度を調整すればいいだけです。

元来、高齢者が十分に安心できる生活を保障することは、憲法25条にも謳われた国の責任です。だからそれをカバーする分の年金は、本来は全員平等に国の財政でめんどうをみるべきものです。保険の形でそのことがまかなえなければ国の財政が支えるのは当然です(特に国民年金の保険料は高すぎて払えない人がたくさん出ているので、公費を使って引き下げるべきです)。

景気がまだ十分でない間は、国が収入以上に十分財政支出することで景気が拡大します。人々の老後の不安が解消されれば、消費需要が増えますのでますます景気拡大に寄与します。年金基金の運用先の提供にもつながります。そして十分に景気が好くなって、賃金が上がって、中小企業も含めて事業者の負担力が増したならば、保険料の金額は増え、保険料を納めることができなかった人たちも納められるようになり、余裕のある人たちの保険料を引き上げることもできるようになって、年金不安など霧消するでしょう。

ですが、まだ景気が十分でないときに保険料率を引き上げるとか、受給年齢を引き上げるなどをすると、消費需要を減退させて景気を悪化させ、ますます問題をこじらせるにちがいありません。ましてや消費増税を社会保障財源にするというのは、まったく的外れの考え方です。そんなことをしたらさらに消費需要を減退させて事態を悪化させてしまいます。

以上をふまえ、私たちは次のとおり訴えます。

・「2000万円不足騒動」は、政府・金融庁が民間金融機関の私的利益のために公的責任を放棄し、ひとびとの間に老後不安と自己責任論を煽り、消費減退による不況と個人への運用リスクの押し付けをもたらすものであり、決して容認できない。

・すべての人に等しく十分に安心できる老後の生活を保障することは可能であり、そのために必要な財政をかけることは公の責任である。

・年金不安を口実に、景気がまだ十分でないにもかかわらず、保険料の引き上げ、受給年齢の引き上げ、消費税率の引き上げなど、庶民に負担をかける制度改悪を行うことは、景気を後退させて事態を悪化させるものであり、反対する。

・保険料収入を増やして高齢者の生活を支えるためにまず必要なことは、財政支出と、老後不安の解消による消費需要の拡大によって、十分な好景気をもたらすことである。