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実質実効為替レートは高いほうがいいのか?

最近、日経が実質実効為替レート(REER)の安さを批判するような記事を連発していました。世間一般にも、専門家も含め、これが高いほうがいいとするような誤解が多いようです。

本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授が、こうした議論を批判する文章を書いていますので紹介します。実質実効為替レートとは何かということから、丁寧に説明しています。

朴勝俊「実質実効為替レートは高いほうがいいのか」

また朴共同代表は、このことについてのツイートも連投しています。その中には、BISのペーパーでの関連する説明の訳も含まれています。

https://twitter.com/psj95708651/status/1487635732365975555?s=20&t=GVSlvBW6HMAEivjOGbvkYg

私(松尾匡)からも一言言えば、デフレが名目の円高で相殺されないと当然REERは安くなります。デフレと同じだけ名目の円高になりでもしたら、デフレスパイラルも極まれりというところで、大変なことになります。デフレの間、REERが低下し続けてよかったのです。

しかも、そのかん貿易にしめる中国の割合が高くなっています。中国のインフレが名目の元安で相殺されない限り、やっぱり円の実質実効為替レートは下がります。

人民元は長期的に高まっています。このかんたくさん貿易黒字を出していて、ほっといたら元がすごく高くなるところ、中国の通貨当局は、そうならないように元を作って売って外貨を買って、元高のスピードを和らげてきたので、ゆるやかな元高とインフレがともに起こってきたわけです。

そしたら円の実質実効為替レートは安くなって当然です。

オンラインセミナー「中小製造業企業の能力構築・競争力と価格競争:欧州・北欧イノベーション政策から考える中小企業政策への含意」

コロナ以降、政府側シンクタンクや政府の諮問会議から、中小企業の「新陳代謝」を進め、「生産性」を高めるところだけを選択支援すべきだと大合唱が起こっています。典型例は、日本の生産性が低いのは小規模な企業が多すぎるからだとして、中小企業半減論を唱えるデービッド・アトキンソンさんの議論です。この人をブレーンとして仰いできた菅首相は、就任後、俄然こうした路線に乗り出して、そのための法律や税制の整備を始めています。

しかし、日本の中小企業ははたして本当に生産性が低いのでしょうか。単位労働あたりの付加価値が低いことは、規模が小さいせいで技術力が劣っていることの現れなのでしょうか。

名古屋工業大学の徳丸宜穂教授は、福祉とイノベーション創出を両立させる、新自由主義的でない道を求めて北欧(フィンランド)の実例を検証し、地域経済の中で技術や新製品や雇用を生み出す仕組みを、日本や東アジアの実例から分析してきました。

https://www.tokumarunorio.info/

この際、徳丸先生から、愛知県の中小製造企業の調査分析から得られた知見と、フィンランドの中小企業政策のお話をおうかがいし、菅・アトキンソン路線の当否を検討する手かがりとしたいと思います。

中小製造業企業の能力構築・競争力と価格競争——欧州・北欧イノベーション政策から考える中小企業政策への含意

お話 徳丸宜穂さん(名古屋工業大学)

日時 2021年3月31日(水) 14時から15時30分

受付締め切り当日正午

セミナーはズームを用いて行います。参加ご希望のかたは、検索できるように必ず表題に「PEPセミナー参加希望」と書いて、下記問い合わせ先メールアドレスにご通知ください。当日の開始およそ1時間前にZoomのURLをお送りします。

お問い合わせ: 松尾匡 matsuotadasu[at]gmail.com            (atはアットマーク)

吉岡真史さんオンラインセミナー「財政のサステイナビリティについて考える」

吉岡真史さんは、長年内閣府で経済分析の仕事をされてきたかたで、折々の日本経済分析や旺盛な書評やタイガースの応援記事のブログは一部に根強いファンをお持ちです。

http://pokemon.blog2.fc2.com/

この吉岡さんが、この四月から、立命館大学経済学部に日本経済論の教授として赴任されました。

コロナ禍もあって半年以上止まっていました本会のセミナーですが、今後吉岡さんに末長いご協力をお願いする機会として、下記のとおり、オンラインでご研究の報告をお願いすることにしました。

財政のサステイナビリティについて考える

お話 吉岡真史さん(立命館大学)

日時 20201027日(火)午後5時~

受付締め切り1027日午後12:00

セミナーはZoomを用いて行います。

テーマは、財政の持続性をめぐる諸議論、特に動学的非効率性の問題といわゆるMMT命題について検討するものです。詳しくは次のリンクをご覧ください。

Yoshioka_sustainability

参加ご希望のかたには、当日正午までに以下のURLにアクセスして、別ウインドウで開く申し込みフォームから、お名前とメールアドレスを登録してください。当日の開始およそ1時間前にZoomURLをお送りします。

https://forms.gle/baU9HckYRYh3dDiN7

お問い合わせ: 松尾匡 matsuo-t[at]ec.ritsumei.ac.jp             (atはアットマーク)

<レポート 014> 世界でも特異な国債60年償還ルールは廃止が当然

本会からの声明レポートです。

要約: 昨年9月に財務省内部で、国債60年償還ルールの廃止が検討されたことが、朝日新聞によって2月18日に、いささか否定的な意味合いを込めて報道されました。しかし、このルールを廃止することは肯定的に評価すべきことです。日本の財政を不安の感情に動かされたものから理性的なものに変え、経済状況に即した適切なものとするために、必要不可欠なルール改正なのです。国債を償還すると世の中からおカネが消えるという事実と、諸外国では国債の元本は借り換えて残高を維持し、利払いだけ行っているという現実を理解すべきです。報道機関には、「財政規律」を理由として、あたかもこのルールが維持されるべきだというような報道をすることを慎むことを希望します。また財務省には再度、このルールの廃止のためにオープンな議論を開始するよう、お願いいたします。

↓ダウンロード
report-014

延期です! 勉強会企画「協同組合が変える韓国の経済構造」

下記企画は、京都市内のコロナ感染拡大により、延期になりました。

これが、経済の民主化だ!協同組合が変える韓国の経済構造
~ムン・ジェイン大統領とパク・ウォンスン ソウル市長の政策と市民運動を事例に~

●2020年3月8日(日)14:30~17:00
キャンパスプラザ京都  6F 第1講習室
京都市下京区西洞院通塩小路下る東塩小路町939
市営地下鉄烏丸線、近鉄京都線、JR各線「京都駅」下車。徒歩5
●参加費:無料(カンパ歓迎)

―――資本より人を、競争より協同を―――
韓国では2012年に協同組合基本法が施行され、5人集まれば出資金の制限なくあらゆる形態の協同組合が設立できるようになった
その後の1年間で設立された協同組合は3000以上、創出した雇用は約1万といわれる。この法律が成立した背景にはどんな運動があったのか?
協同組合は韓国の経済を、政治をどう変えたのか?その核心に迫る

■講師 共同連運営委員 柏井宏之(かしいひろゆき)■
1940年、朝鮮半島生まれ。
生活クラブ教育担当で多くの韓国からの研修生を受け入れ、彼らが帰国後創った生協と、東京・神奈川の生協の姉妹提携を担当。訪韓20回以上。
朴元淳・現ソウル市長とは、李明博大統領時代に弾圧され起訴されていた頃から交流があり、市長2期目から本格化する社会的経済の政策にも詳しい。

■コーディネーター 生活クラブ京都エル・コープ元専務 黒岩卓美■
日本では非常にハードルの高い協同組合を2回設立した経験を持つ
現生活クラブ京都エル・コープの創立者のひとり。

■コーディネーター 立命館大学教授/ひとびとの経済政策研究会 松尾匡■
ひとびとの経済政策研究会共同代表

■司会/報告「欧米の新しい協同経済」 e未来の会共同代表 長谷川羽衣子■
前緑の党共同代表。反緊縮グリーン・ニューディールなど欧米の環境・経済政策に詳しい
。翻訳書に『黒い匣―密室の権力者たちが狂わせる世界の運命』、著書に『原発ゼロをあきらめないー反原発という生き方』など。
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●お問合せ e未来の会HPのお問合せフォームよりご送信下さい
https://www.emirai.xyz/

主催:e未来の会 ひとびとの経済政策研究会
共催:市民社会フォーラム 協同組合運動研究

年金問題についての声明

誰も置き去りにしない社会保障制度の実現を
「老後資金2000万円不足」騒動を受けての声明

ひとびとの経済政策研究会

 「老後資金が2000万円不足」とした、金融審議会の専門家の報告書をめぐる騒動は、安倍首相や麻生外相はもちろん、金融庁の良識にも疑問を抱かせるに十分でした。

2000万円の根拠はたんに、2000万円以上の貯蓄がある「平均的」な(実際には一般人よりもはるかに富裕な)高齢夫婦無所得世帯が、年金などで毎月20万円の収入を得て、6万円ほど貯蓄を取り崩しながら26万円程度の支出を行っている、というだけの家計調査データです。「不足」とは関係ありません。しかしこの報告書は、このような数字を用いて老後の不安を煽って、ひとびとに民間の金融商品への貯蓄を誘導するようなひどいものです。これを受けてまず麻生財相がニュースで伝えた「2000万円ためろ」という意味のメッセージも、まさに民間金融機関の利益誘導そのものでした。

デフレ脱却が実現していない現状で、年金不安を煽って貯蓄を奨励すれば、消費が減退して景気がさらに悪化することは目に見えています。さらに、民間金融商品による老後資金の貯蓄は、政府が担う年金・社会保障制度と比べても決して安全で有利なものとは言えません。

しかし、GPIFの年金資金運用で多額損失が生じているということも同時にメディアによって針小棒大に伝えられ、年金不安がさらに増幅されています。若年層の中には、自分たちが収めた年金は絶対に自分たちに戻ってこないと信じている人もたくさんいます。このような状況は不幸なことです。

積立金の運用は副次的な問題にすぎません。現在の年金制度は、賦課方式で運用されています。勤労世代が毎年払い込んだ年金保険料が、その年の内に、高齢世代に支払われる制度です。この制度がある限り、適切に調整すれば、制度が破綻することはありません。そもそもどんな制度をとろうが、働いている人が生産した財やサービスを働いていない人が受け取るという本質に違いはありません。日本の労働力人口の総人口に占める割合は長期にわたりほぼ半分で不変で、近年はかえって増えています。女性と高齢者の自発的な労働力化でこの割合を維持することは可能です。あとはうまくまわるように制度を調整すればいいだけです。

元来、高齢者が十分に安心できる生活を保障することは、憲法25条にも謳われた国の責任です。だからそれをカバーする分の年金は、本来は全員平等に国の財政でめんどうをみるべきものです。保険の形でそのことがまかなえなければ国の財政が支えるのは当然です(特に国民年金の保険料は高すぎて払えない人がたくさん出ているので、公費を使って引き下げるべきです)。

景気がまだ十分でない間は、国が収入以上に十分財政支出することで景気が拡大します。人々の老後の不安が解消されれば、消費需要が増えますのでますます景気拡大に寄与します。年金基金の運用先の提供にもつながります。そして十分に景気が好くなって、賃金が上がって、中小企業も含めて事業者の負担力が増したならば、保険料の金額は増え、保険料を納めることができなかった人たちも納められるようになり、余裕のある人たちの保険料を引き上げることもできるようになって、年金不安など霧消するでしょう。

ですが、まだ景気が十分でないときに保険料率を引き上げるとか、受給年齢を引き上げるなどをすると、消費需要を減退させて景気を悪化させ、ますます問題をこじらせるにちがいありません。ましてや消費増税を社会保障財源にするというのは、まったく的外れの考え方です。そんなことをしたらさらに消費需要を減退させて事態を悪化させてしまいます。

以上をふまえ、私たちは次のとおり訴えます。

・「2000万円不足騒動」は、政府・金融庁が民間金融機関の私的利益のために公的責任を放棄し、ひとびとの間に老後不安と自己責任論を煽り、消費減退による不況と個人への運用リスクの押し付けをもたらすものであり、決して容認できない。

・すべての人に等しく十分に安心できる老後の生活を保障することは可能であり、そのために必要な財政をかけることは公の責任である。

・年金不安を口実に、景気がまだ十分でないにもかかわらず、保険料の引き上げ、受給年齢の引き上げ、消費税率の引き上げなど、庶民に負担をかける制度改悪を行うことは、景気を後退させて事態を悪化させるものであり、反対する。

・保険料収入を増やして高齢者の生活を支えるためにまず必要なことは、財政支出と、老後不安の解消による消費需要の拡大によって、十分な好景気をもたらすことである。

<翻訳>パウェル・ワーガン「ヨーロッパのためのグリーン・ニューディール」

本会共同代表朴勝俊関西学院大学教授による翻訳です。

最近アメリカ民主党左派のスター議員アレクサンドリア・オカシオコルテスが提唱していることで知られてきた「グリーン・ニューディール」とは、再生可能エネルギーの開発などのために積極的な財政出動を行って、「緊縮策と気候変動という双子の危機」を乗り越える政策パッケージです。

ヨーロッパでも、ドイツ緑の党など、いくつかの左派的な政治勢力がこれを提唱していますが、ヤニス・バルファキス率いるDiEM25(欧州に民主主義を運動2025)の看板政策の一つでもあります。

本稿の著者のパウェル・ワーガンは、現在バルファキスと組んで、欧州にグリーン・ニューディールを導入する活動に取り組んでいます。この翻訳は、社会主義の週刊誌Tribuneのウェブ版で発表されている彼の論考をもとにしており、グリーン・ニューディールの問題意識と基本的アイデアが記されています。一読してわかるとおり、気候変動危機を、金融危機と不可分の、緊縮政策や規制緩和の帰結ととらえており、1%の強者の都合のために引き起こされて、多数の大衆に犠牲を払わせるものであると指摘しています。

グリーン・ニューディールは、直接気候変動危機解決と取り組む事業であると同時に、反緊縮的財政出動によって持続的雇用を生み出すプロジェクトとして打ち出されています。財源は、量的緩和のために無駄に銀行に溜め込まれた資金を、欧州公共銀行債を通じて活用するとされています。

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<レポート 013> デフレ脱却時の「金利上昇のリスク」に関する統合的シミュレーション

本会共同代表朴勝俊関西学院大学教授によるレポートです。

<要約>

本稿では、デフレ脱却時の金利上昇によって生じる、いわゆる「出口のリスク」について、シンプルな国債評価額シミュレーションモデルを用いて、政府・日銀・民間の三部門について同時に定量的な検討を行った。日本経済を模した簡便なモデルによって、日銀と民間が保有する国債が、デフレ脱却に伴う金利上昇のせいでどの程度の評価損を出すのか、名目経済成長によって民間の可処分所得と政府の税収がどの程度増えるのか、を同時に把握したのである。その際、名目金利は名目成長率に等しいと仮定した。

その結果は以下のとおりである。まず政府は、デフレ脱却に伴って新規国債に対して最終的に3%のクーポン金利を支払わなければならなくなると想定されるが、それは税収の増加分から支払うことが可能であり、財政破綻は起こらない。

日銀はデフレ脱却期に、最大およそ40兆円の国債評価損を計上する。しかしこれはあくまで帳簿上の損失である。他方、金利が上昇すると、新発債の保有から日銀は着実に金利収入(貨幣発行益)を得ることになる(これは国庫納付金の形で政府に返納される)。

民間については、何よりも名目GDPの成長のメリットが、国債評価損や、納税額の増分を補ってあまりあるほど大きい(名目可処分GDP増分の、15年間の累計額は約1515兆円)。物価上昇を勘案しても実質可処分GDPは相当額のプラスとなる(累計516兆円)。デフレ脱却時の金利上昇によって、民間部門が大きな損失を蒙ることはない。

これらの結果を総合して言えることは、「出口」における「日銀破綻」、「財政破綻」、「民間の大損失」という話は、怪談話に過ぎないということである。デフレ脱却に伴う金利上昇によって、日銀と、政府と、民間がともに破綻の瀬戸際に追い込まれるということはあり得ない。それでも、もし国債の評価損が問題とされるようならば、日銀も民間経済主体も、資産として国債を帳簿に金額を記載する際に、額面額で記載することを許せば、懸念や混乱はほぼ根絶できるであろう。

レポート本文 report-013

シミュレーションを実施したエクセルファイル report-013Sup

梶谷懐さんセミナー「中国における反緊縮マクロ経済政策の実践ー1980年代から現在まで」

世界の反緊縮運動にとって、中国共産党独裁体制は決して目指したいようなものではないと思いますが、実は最も成功した反緊縮政策の実例は中国なのではないかとの声があります。その経済運営パフォーマンスの秘密はどこにあるのか。中国経済研究者の梶谷懐神戸大学教授からそれをうかがうセミナーを開催します。

ひとびとの経済政策研究会セミナー「中国における反緊縮マクロ経済政策の実践ー1980年代から現在まで」

日時:2019年6月18日 13時30分〜15時30分

場所:キャンパスプラザ京都6階 第1講習室

報告者:梶谷懐 神戸大学大学院経済学研究科教授

<レポート 012> MMTとは何か —— L. Randall WrayのModern Money Theoryの要点

本会共同代表朴勝俊関西学院大学教授によるレポートです。

最近急に話題になっている現代貨幣理論(Modern Monetary Theory)の代表的な教科書である、ランダル・レイ教授のModern Money Theoryを検討し、その内容を紹介、解説したものです。

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