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エコノミック・ポリシー・レポートや翻訳のお知らせ

<レポート023>PEP Discussion Paper 2024-003 朴勝俊、松尾匡 生産関数アプローチによるGDPギャップの推計(2024年第2四半期まで):9月25日修正版

※ 9月23日に公開したバージョンでは、総要素生産性として推計したデータが、まだ総需要側の変動を含んでいて景気とともに変動してしまう動きが無視できなかったため、新たに、このデータの当期も含む過去二年の最大値を総要素生産性として採用することにして計算し直しました。(2024年9月25日)

本会共同代表の、朴勝俊関西学院大学教授と私による共著のディスカッションペーパーです。

景気が良いか悪いかを示す便利な指標にGDPギャップというものがあります。GDPギャップというのは、現実のGDPと潜在GDPの乖離の比率のことです。もともとは、潜在GDPというのは、最大可能な国内総生産を意味していましたから、これは、雇用を増やしたり機械の稼働率を高めたりすることで、あとどのくらい国中の生産を増やせる余地があるかを示す指標のはずでした。現実のGDPが潜在GDPに比べて低ければ低いほど、失業者が多いわけですから、財政の出動で現実のGDPを増やして失業者を解消する必要と余地が大きいことを意味します。

以前は、潜在GDPの公式統計として、もともとの定義どおり、今ある労働力や機械などをフルに使ったらどのくらいのGDPになるかを推計していました。今でも主な国際機関が出している統計は、この方法に基づいています。

ところが日本ではいつしか、過去何年かのGDPの平均として潜在GDPを出すようになりました。この方法の場合、不況が長引くと、潜在GDP自体が低く出てしまいますので、現実のGDPが簡単に潜在GDPを上回り、まだ全然景気がよくないのにGDPギャップがプラスで好景気だなどと言われてしまうことがあります。

そこで私たちは、労働や資本(機械や工場)をフルに使って生産できる潜在GDP(上限GDP)をあらためて推計し、それに基づき、ただしいGDPギャップを計算して見せようと思いました。

コブ・ダクラス型の生産関数を想定して、それを計算したものが本稿になります。
結論のひとつとしては、現在、現実のGDPはあと22〜25兆円ばかり増加可能だということがわかりました。

松尾匡(立命館大学教授、本会共同代表)

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economic policy report 023

<レポート022> PEP Discussion Paper 2024-002 朴勝俊 債務ダイナミクス入門: 日本は国債残高対 GDP 比を変えずにどれだけのプライマリ赤字が出せるのか

本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授によるディスカッションペーパーです。ここでは、日本の国債残高やそのGDP比の過去実績や将来推計のシミュレーションを行なっています。また、国債残高の対GDP比を一定に保つならば、プライマリーバランスの赤字がどの程度出せるのかもシミュレーションしています。

私見では、国債残高のGDP比自体の高低は意味のないものだと思いますし、このペーパーの著者自身も、財政の持続性という議論そのものの意義について懐疑的ですので、やはり同じ認識だと思われます。ただ、一般に蔓延する財政不安を緩和するのに役立てる目的のために、このペーパーのシミュレーションが行われたものと考えられます。

(松尾匡,本会共同代表)

要約
 債務ダイナミクスは国債残高対GDP比で表現される。この指標の長期的な推移は、名目経済成長率(g)と名目金利(r)とプライマリーバランス(PB)によって決まる。PB均衡の場合には、国債対GDP比は、g-r<0の時は増加を続け(発散し)、g-r>0の時は縮小を続け、g-r=0の時は安定することが明らかになった。またg-r>0の時には、ある程度のPB赤字を出しても国債対GDP比を安定的に保つことができる。その金額はgとrとの差に、前期末の国債残高をかけた額、すなわち(g-r)Bt-1である。
 金利が上昇することに対して懸念の声が多く聞かれるが、大げさに心配する必要はない。まず、既発債はクーポン金利が決まっているので、市場金利が上がっても政府が支払う金利が直ちに増えるわけではない。また金利が高くなるのは、借換えと財政赤字によって新たに発行される国債だけであり、それは国債残高全体のうちごく一部である。次に、金利上昇によって既発債の評価額の減少が懸念されているが、この影響は国債保有者のみに及ぶもので、ごく一過性のことである。満期前の国債の買い手はもちろん金利上昇によって利益を受けることになる。最後に、繰り返しになるが、金利が以前より高い水準にとどまれば、その後はその金利に応じて複利の形で国債残高が増加してゆくのは確かであるが、国債対GDP比に関して問題になるのは、名目成長率を金利が下回っているかどうかであり、金利が上がることそのものではない。
ただし、この「債務の持続可能性」や「国債対GDP比」は、通貨主権を持つ日本のような国にとっては、さほど重要な問題ではない。日本政府が自国通貨建て国債のデフォルトを強いられることはないし、(名目成長率がマイナスにならない限り)中央銀行は国債を買い入れることによって金利を成長率以下に下げることが可能なためである。
より重要なのは「機能的財政」の原則に立って、物価の安定と雇用の最大化、および人々の生活の向上を実現することである。

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economic policy report 022

経済概観2024年6月号

ひとびとの経済政策研究会のメンバーの朴勝俊さんと私、松尾匡が監修するもとで、れいわ新選組の長谷川羽衣子さんが報告した、2024年6月15日付の経済概観をここに公表します。

概要

2022年以来、日本では物価高・円安が進んできましたが、ここ最近は歩みが落ち着いてきています。他方、実質賃金は減り続け、生活が苦しくなっている人も多く、消費税減税と給付金による生活底上げが必要です。また、GDP需給ギャップ(正常な生産量との乖離を示す指標)は、2023年の第2四半期にいったんプラスとなり、これを受けて新聞や一部野党は、すでに日本はインフレだ、今後もっとインフレになる、だから金利を上げて円高にすべきだ、といった主張をしてきました。しかしその後、再びGDP需給ギャップはマイナスとなりました。消費を中心とした内需の面では、すでに後退局面に入ったと思われます。また、マーケットの予想物価上昇率であるブレイクイーブン物価上昇率は物価安定目標に達しておらず、マーケットは過度な物価上昇が続くとは予想していないことが分かります。従って、当面は現金給付や減税で家計を支えながら、金融緩和を継続しつつ物価上昇以上の賃上げを実現することが何よりの急務です。他方で、人々の所得と内需が停滞しているのに、輸出主導で経済が物価安定目標の上限に達してしまう可能性にも引き続き目配せが必要で、万博など不要な事業に労働力や資材などの資源が吸い取られるのを止める必要があります。また、急な円安によって、利益を受ける人々や企業と、苦しくなる人々や企業の間に格差が広がっています。当面は、現金給付や消費税廃止で円安の負の影響を打ち消すとともに、円安による利益を全ての人が受けられるよう、大幅な賃上げや待遇改善が必要です。

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<レポート021> PEP Discussion Paper 2024-001 朴勝俊 2000年以降の日本に関する為替レート変化の貿易収支改善効果に関する検証

本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授によるディスカッションペーパーです。ここでは、2000年以降の日本の年次時系列データを使って、為替レートが貿易収支に及ぼす影響を計量分析しています。

それによれば、実質実効為替レートが円高になると、当期の名目貿易収支への影響はほとんどないが、二期後の名目貿易収支を減少させる(赤字を増やす)効果があることが実証されたとのことです。ただし、名目為替レートが円高になったときに、名目貿易収支を減少させる(赤字を増やす)効果があることを示す「マーシャル=ラーナー条件」を推計したところ、短期的にも長期的にも満たさないとの結論が得られたとのことです。

この問題をめぐる既存研究がよくサーベイされており、また、さまざまな場合分けをして計量分析していますので、この問題に関心を持つ人には有益なペーパーとなっていると思います。

私見では、このかん輸出産業の供給ボトルネックが問題になっていたので、輸出については、円高になって減らすときの係数と、円安になって増やすときの係数が違うのではないかと思います。しかし、それを分けて計量することは、サンプル数の問題から困難ではあるとは思います。

(松尾匡, 本会共同代表)

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economic policy report 021

経済概観2024年2月号

ひとびとの経済政策研究会のメンバーの朴勝俊さんが監修し、私、松尾匡も検討に加わったもとで、れいわ新選組の長谷川羽衣子さんが報告した、2024年2月1日付の経済概観をここに公表します。

インフレはおさまりつつあり、円相場は円高方向に向かうことが見込まれる。貿易・サービス赤字は解消に向かっている。他方で、GDPギャップは需要不足側に戻り、雇用・求人倍率の伸びも頭打ちになり、賃金は上昇しているが物価に追いついていない。倒産件数は急増している。——というものです。

私見では、総じて景気回復が民衆に恩恵が及ぶ前に頭打ちになっている段階と見られます。これが単なる踊り場なのか、後退につながるのかはアメリカ経済次第というのが、現政権のもとでの現状のように思えます。

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<レポート019en> ECONOMIC POLICY REPORT2023-002[EN] PARK Seung-Joon, “To default or not to default? Differences in government bonds of major countries with monetary sovereignty and of EU member states — Explanation with 4 sectors balance sheets –”

この前に投稿いたしました、本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授による一般向け解説、「日本の自国通貨建て国債のデフォルトはありえないとはどういうことか——バランスシートで理解する貨幣と財政(入門編)」を、著者本人が英訳(基本的に機械翻訳をもとに)しましたので、ここに掲載いたします。冒頭のAbstractを引用しておきます。

The Ministry of Finance Japan (MOFJ) said that default on government bonds denominated in the local currency of advanced economies such as Japan and the US was inconceivable. We try to explain why is that, somewhat in different way from MOFJ’s explanation. This paper has examined the creation and extinction of money and the redemption and refinancing of government bonds in the framework of the four-sector balance sheet. The government spending generates reserves in the financial sector, which can in effect only be used to purchase the next Japanese government bonds. Since there is no other use for them, this means that new government bonds can always be sold and maturing bonds can always be refinanced with moderate interest rate. This is the key advantage of monetary sovereignty. On the other hand, like an Euro member state, if a country adopts a common or foreign currency and abandons its monetary sovereignty, it may be unable to refinance its government bonds and be forced to default, as euro reserves acquired by the financial institutions of the euro area as a whole through the spending of a member state are not necessarily used to purchase the state’s bonds.

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<レポート020> PEP Discussion Paper 2023-03 朴勝俊 「生産性を上げる努力」は経済成長にはつながらない~2011年以降の日本の付加価値労働生産性の要因分解~

本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授によるディスカッションペーパーです。ここでは、「法人企業統計調査」から得られた2011年から2021年までの日本企業のデータを使って、実質付加価値の労働生産性の変化を、付加価値率、従業員数、売上高の変化に要因分解して、企業規模別に特徴を検討しています。

それによれば、全産業では総じて売上高減少が生産性の低下要因となっており、不況(総需要不足)が付加価値生産性低迷の原因だったことが示唆されれています。また、大企業は付加価値率を高めたことが生産性低下の阻止要因になっている一方、小企業は付加価値率を下げてたことが生産性の低下要因になっています。著者はここから、大企業が中小の下請け企業に値下げを強いてきた可能性を読み取っています。また、製造業では従業員数の削減が生産性向上に寄与してきたのに対して、非製造業では一貫して従業員数は増加してきたことも指摘されています。

総じて、中小企業のいわゆる生産性停滞の原因は、努力不足にあるのではなくて、不況や大企業による圧迫に原因があることが示唆されるファクトファインディングとなっています。

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economic policy report 020

<レポート019> PEP Discussion Paper 2023-02 朴勝俊 日本の自国通貨建て国債のデフォルトはありえないとはどういうことか——バランスシートで理解する貨幣と財政(入門編)

本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授による一般向け解説です。政府、日銀、民間金融機関、民間非金融機関の四部門についてバランスシートを示し、さまざまなケースでおカネがどのように生まれ、どのように消滅するのかを説明しています。検討されているケースは次の目次に示す通りで、それぞれ、順を追って四部門の間のお金を動きを示した上で、当初と比べた最終的な結果を検討しています。
(※ 表10の見出しが間違っていましたので、訂正しアップロードしなおしています。2023年7月23日)
(※ またいくつか間違いを見つけましたので、訂正しアップロードしなおしています。また、別記事のとおり、英訳をアップロードしています。2023年9月15日)

目次
1. はじめに
2. 四つの経済部門の金融資産・負債
3. 財源とは何か? - 政府預金の調達 -
 3.1 徴税
 3.2 国債発行(民間金融が日銀当座預金を十分に持っている場合)
 3.3 国債発行(民間金融が日銀当座預金を全くもっていない場合)
 3.4 国債または政府短期証券を日銀が引き受ける場合
4. 政府支出
5. 財政赤字
6. 国債の償還
7. 国債の借り換え
8. 金利の支払い(徴税による支払い)
 8.1 徴税による金利支払い
 8.2 新規の国債発行による金利支払い
9. 日銀券の引き出し
10. 日銀貸し付けによるマネタリーベースの増加
11. 銀行が貸し付けをするとマネーストックが増える
12. ユーロ加盟国はなぜ財政破綻しうるのか
13. 結論

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economic policy report 019

<レポート018> PEP Discussion Paper 2023-01 朴勝俊 「管理通貨制度において貨幣は政府支出によって生まれ徴税によって消滅する」という事実を考慮したIS-LM モデルの比較静学分析

本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授が、民間投資や赤字財政支出に際しての信用創造や徴税によるマネーストックの減少を考慮にいれて、これらの効果の有無で場合分けして、財政支出や増税、金融政策の効果を比較静学分析したディスカッションペーパーを執筆したので、ここに公表します。

<要約>
 管理通貨制度においては、貨幣(マネーストックすなわち現金と銀行預金の合計)は政府支出によって生まれ、徴税によって消滅する。したがって、IS-LMモデルにおいて拡張財政政策がなされる場合には、たとえ政府が金融機関に対して新規国債を売る場合であっても、おのずと貨幣が増えることになる。また、企業が銀行から融資を受けて設備投資をする際には、いわゆる信用創造(銀行の融資債権と、貨幣の一種である預金負債が両建てで増えること)によって貨幣が生まれる(逆に融資が返済されると貨幣が消滅する)。このことは、財政・金融政策の結果として金利が変化した場合に、銀行借り入れによる民間設備投資が追加的に増減するならば、政策の効果を増幅させることを意味する。本稿はこのよう観点から慎重に場合分けを行い、比較静学分析の計算結果を整理した。

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economic policy report 018

<レポート017E> PEP DISCUSSION PAPER 2022-1E PARK Seung-Joon, “Eggs first or chickens? A re-examination of Granger causality between increase in government spending and GDP growth”

この前に投稿いたしました、本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授による、デービッド・アトキンソン氏への批判論文「タマゴが先かニワトリが先か? : 政府支出と GDP のグレンジャー因果性に関する検討」を、著者本人が英訳しましたので、ここに掲載いたします。冒頭のAbstractを引用しておきます。

Abstract
Based on data from various countries, a strong correlation was noted between the growth rate of government expenditure and the growth rate of nominal and real GDP, but there was some debate about the direction of causality. In this paper, a simple theoretical simulation model was first constructed to show that scatter plots similar to those actually observed can be drawn in either direction we assume the causality. We then tested Granger causality between general government expenditure, nominal GDP and GDP deflators using data from 1980 to 2021 for 38 OECD countries, and found that the results differed significantly from country to country at different time periods, with many cases suggesting a causality from growth to government expansion. However, as government expenditure statistics such as in the SNA are produced on an accrual basis, the point in time when the amounts are recorded may be later than when the orders are placed, which means that ‘spurious causality’ may be observed.
Therefore, we tried using the lead variable (a variable of later period) of public spending to test for Granger causality, and found that the results could change. To examine this point in more detail, we used quarterly data from the Japanese GDP statistics (1994-2021), namely nominal GDP, government fixed capital formation and government consumption. We found that in Japan since 2008 there was (practically) no causal relationship in neither direction without lead variables. However, with lead variables of government expenditure, one-way Granger causality from public spending to nominal GDP was observed.

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economic policy report 017E