レポートリリース」カテゴリーアーカイブ

エコノミック・ポリシー・レポートや翻訳のお知らせ

<レポート015>商品貨幣論および外生的貨幣供給説の誤り -『 マンキュー マクロ経済学』 を例として

シェイブテイル&朴勝俊
2020年 3月 18日

大学で用いられているマクロ経済学の教科書は、ほとんどが「 商品貨幣論 」 と 「 外生的貨幣供給説 」 に立っています。 これらの考え方は、貨幣量は有限であり、預金の結果として貸出が可能となる、言い換えれば家計の貯蓄が企業や政府の債務を支える という間違った議論につながります。現在の主なマクロ経済理論が現実をうまく説明できないのは、この 2つの考え方に立脚しているからだと考えられます 。
本稿では、大学等で広く使われている教科書のひとつである『マンキュー マクロ経済学 I 入門編 (第 3版 )』 に記された貨幣論を批判的に検討し、その 誤りを明らかにします 。

ダウンロード How-Mankiw-is-wrong

<レポート 014> 世界でも特異な国債60年償還ルールは廃止が当然

本会からの声明レポートです。

要約: 昨年9月に財務省内部で、国債60年償還ルールの廃止が検討されたことが、朝日新聞によって2月18日に、いささか否定的な意味合いを込めて報道されました。しかし、このルールを廃止することは肯定的に評価すべきことです。日本の財政を不安の感情に動かされたものから理性的なものに変え、経済状況に即した適切なものとするために、必要不可欠なルール改正なのです。国債を償還すると世の中からおカネが消えるという事実と、諸外国では国債の元本は借り換えて残高を維持し、利払いだけ行っているという現実を理解すべきです。報道機関には、「財政規律」を理由として、あたかもこのルールが維持されるべきだというような報道をすることを慎むことを希望します。また財務省には再度、このルールの廃止のためにオープンな議論を開始するよう、お願いいたします。

↓ダウンロード
report-014

<翻訳>パウェル・ワーガン「ヨーロッパのためのグリーン・ニューディール」

本会共同代表朴勝俊関西学院大学教授による翻訳です。

最近アメリカ民主党左派のスター議員アレクサンドリア・オカシオコルテスが提唱していることで知られてきた「グリーン・ニューディール」とは、再生可能エネルギーの開発などのために積極的な財政出動を行って、「緊縮策と気候変動という双子の危機」を乗り越える政策パッケージです。

ヨーロッパでも、ドイツ緑の党など、いくつかの左派的な政治勢力がこれを提唱していますが、ヤニス・バルファキス率いるDiEM25(欧州に民主主義を運動2025)の看板政策の一つでもあります。

本稿の著者のパウェル・ワーガンは、現在バルファキスと組んで、欧州にグリーン・ニューディールを導入する活動に取り組んでいます。この翻訳は、社会主義の週刊誌Tribuneのウェブ版で発表されている彼の論考をもとにしており、グリーン・ニューディールの問題意識と基本的アイデアが記されています。一読してわかるとおり、気候変動危機を、金融危機と不可分の、緊縮政策や規制緩和の帰結ととらえており、1%の強者の都合のために引き起こされて、多数の大衆に犠牲を払わせるものであると指摘しています。

グリーン・ニューディールは、直接気候変動危機解決と取り組む事業であると同時に、反緊縮的財政出動によって持続的雇用を生み出すプロジェクトとして打ち出されています。財源は、量的緩和のために無駄に銀行に溜め込まれた資金を、欧州公共銀行債を通じて活用するとされています。

translation-009

<レポート 013> デフレ脱却時の「金利上昇のリスク」に関する統合的シミュレーション

本会共同代表朴勝俊関西学院大学教授によるレポートです。

<要約>

本稿では、デフレ脱却時の金利上昇によって生じる、いわゆる「出口のリスク」について、シンプルな国債評価額シミュレーションモデルを用いて、政府・日銀・民間の三部門について同時に定量的な検討を行った。日本経済を模した簡便なモデルによって、日銀と民間が保有する国債が、デフレ脱却に伴う金利上昇のせいでどの程度の評価損を出すのか、名目経済成長によって民間の可処分所得と政府の税収がどの程度増えるのか、を同時に把握したのである。その際、名目金利は名目成長率に等しいと仮定した。

その結果は以下のとおりである。まず政府は、デフレ脱却に伴って新規国債に対して最終的に3%のクーポン金利を支払わなければならなくなると想定されるが、それは税収の増加分から支払うことが可能であり、財政破綻は起こらない。

日銀はデフレ脱却期に、最大およそ40兆円の国債評価損を計上する。しかしこれはあくまで帳簿上の損失である。他方、金利が上昇すると、新発債の保有から日銀は着実に金利収入(貨幣発行益)を得ることになる(これは国庫納付金の形で政府に返納される)。

民間については、何よりも名目GDPの成長のメリットが、国債評価損や、納税額の増分を補ってあまりあるほど大きい(名目可処分GDP増分の、15年間の累計額は約1515兆円)。物価上昇を勘案しても実質可処分GDPは相当額のプラスとなる(累計516兆円)。デフレ脱却時の金利上昇によって、民間部門が大きな損失を蒙ることはない。

これらの結果を総合して言えることは、「出口」における「日銀破綻」、「財政破綻」、「民間の大損失」という話は、怪談話に過ぎないということである。デフレ脱却に伴う金利上昇によって、日銀と、政府と、民間がともに破綻の瀬戸際に追い込まれるということはあり得ない。それでも、もし国債の評価損が問題とされるようならば、日銀も民間経済主体も、資産として国債を帳簿に金額を記載する際に、額面額で記載することを許せば、懸念や混乱はほぼ根絶できるであろう。

レポート本文 report-013

シミュレーションを実施したエクセルファイル report-013Sup

<レポート 012> MMTとは何か —— L. Randall WrayのModern Money Theoryの要点

本会共同代表朴勝俊関西学院大学教授によるレポートです。

最近急に話題になっている現代貨幣理論(Modern Monetary Theory)の代表的な教科書である、ランダル・レイ教授のModern Money Theoryを検討し、その内容を紹介、解説したものです。

report-012

<レポート 011> ブレイク・イーブン・インフレ率(BEI)の推計値

本会共同代表朴勝俊関西学院大学教授によるレポートです。

ブレーク・イーブン・インフレ率とは、普通の国債の利回りと物価連動国債の利回りの差のことで、市場参加者のインフレ予想を表しています。人々がどんなインフレ予想を抱いているかは、景気の先行きを見通すときにも、政策の当否を検討するときにも、実質利子率の計算のためにも、非常に重要な変数なのですが、大勢の人々の頭の中を直接測るわけにはいきません。そのため、このブレーク・イーブン・インフレ率はそれを表すものとしてとても有益です。

しかし、ブレーク・イーブン・インフレ率や、その計算のもととなる物価連動国債の利回りのデータは、入手するのが簡単ではありません。

このレポートの著者は、日経NEEDSデータベースから入手した物価連動国債の価格の時系列データをもとにして、可能な限り精密にその利回りの月次データを推計し、さらにそれをもとにしてブレーク・イーブン・インフレ率の月次時系列データを推計しました。今後さまざまな実証研究に利用されることが期待されます。

推計方法の解説と推計結果の紹介をしているレポート本文と、物価連動国債の利回りやブレーク・イーブン・インフレ率の時系列推計値を載せた付属資料のエクセルファイルをアップしておきます。ふるってご利用ください。

レポート本体
report-011

付属資料
report-011AttTbl

<レポート 010> 2040年までの人口動態と国民所得- シニアエリートは嬉しそうに脱成長を語るべからず -

本会共同代表朴勝俊関西学院大学教授によるレポートです。2016年の人口(1.268億人)と2040年の予想人口(1.109億人)、両年の人口構成、および2016年の国民可処分所得(431.6兆円)をベースに、生産年齢人口一人当たりの国民所得がゼロ成長する場合、一人当たりの国民所得がゼロ成長する場合、国全体の国民所得がゼロ成長する場合、生産性が年率2%で上昇する場合の四ケースについて、全国民に平等に分配されるとしたときの一人当たり国民所得を試算しています。

結論としては、生産年齢人口一人当たりの国民所得がゼロ成長する場合には、高齢者の生活を支えることは困難になり、わずか0.5%ないし1%の生産性の成長率の違いが、その後の国民所得水準を大幅に変えることになるということです。

report-010

「反緊縮マニフェスト2017(案)」新デザイン版

本会が昨年発表した「反緊縮マニフェスト2017(案)」、これまで、ワード原稿版と、印刷用pdf版(10ファイル)の二版を本ブログにアップしましたが、このほど、有志のご賛同者がpdfファイル一本にまとめてデザインを一新してくださいましたので、公表いたします。
公約ごとにアイコンができていて、見やすくなっています。宣伝に、研究に、公約づくりの参考に、拡散いただければ幸いです。

最初に発表したときにも述べましたとおり、目標数値やスピードについては、政治家サイドで薄まることを若干織り込んだものとなっていますが、実現までのプロセスについては、段階を省かずに書いたものが多いつもりです。

manifesto2017new

編集、作成いただいた、田川佳さんと、有限会社ツヴァイさんに深く感謝いたします。

<翻訳>ル・フィガロ記事「公的債務:インフレーションに賭けるメランション」(4/5訂正)

協力者の輝野洪瑞さんが、本ブログ昨年4月22日の記事「誰かメランション政策を訳して下さい」に応えて、フランスの『ル・フィガロ』ウェブサイトの2017年4月10日のギョーム・ポワンさんの署名記事

Dette publique: Mélenchon fait le pari de l’inflation

を、翻訳してくださいました。どうもありがとうございます。下記リンクよりダウンロードしてください。

公的債務:インフレーションに賭けるメランション

これによればメランションさんは、すでに2014年から「債務など返さなくてよい」として欧州中銀による加盟国債の買取を主張していましたが、昨年の大統領選挙においても、欧州中銀が公債を買い取ることで4〜5ポイントのインフレを実現することを主張しています。そして、欧州中銀が買い取った国債は永久債化すると言っています。

※ 3月29日にアップした原稿に対して、訂正版が送られてきましたのでアップします。インフレ率の数値について、「パーセント」とあったものを「ポイント」と修正したこと、欧州中銀が買い取った国債を永久債化すると言ったのがメランションの経済顧問とされていたのがメランション本人と修正したことなどが主な修正点です。(2018年4月5日)

<レポート 009> 女性議員比率と社会の幸福度に関する計量分析

緑の党共同代表の長谷川羽衣子さんが、OECD35ヵ国の「幸福度」を「一人当たりGDP」と「女性議員比率」で回帰分析した研究レポートに、「ひとびとの経済政策研究会」で、記述の正確さを増すための本質的でない補足をしたものです。「一人当たりGDP」と「女性議員比率」のどちらも、「幸福度」との間に有意な正の関係があることが実証されました。それをふまえて、因果関係と政策的含意について考察しています。(記事文責 松尾匡)

report-009