<翻訳>パウェル・ワーガン「ヨーロッパのためのグリーン・ニューディール」

本会共同代表朴勝俊関西学院大学教授による翻訳です。

最近アメリカ民主党左派のスター議員アレクサンドリア・オカシオコルテスが提唱していることで知られてきた「グリーン・ニューディール」とは、再生可能エネルギーの開発などのために積極的な財政出動を行って、「緊縮策と気候変動という双子の危機」を乗り越える政策パッケージです。

ヨーロッパでも、ドイツ緑の党など、いくつかの左派的な政治勢力がこれを提唱していますが、ヤニス・バルファキス率いるDiEM25(欧州に民主主義を運動2025)の看板政策の一つでもあります。

本稿の著者のパウェル・ワーガンは、現在バルファキスと組んで、欧州にグリーン・ニューディールを導入する活動に取り組んでいます。この翻訳は、社会主義の週刊誌Tribuneのウェブ版で発表されている彼の論考をもとにしており、グリーン・ニューディールの問題意識と基本的アイデアが記されています。一読してわかるとおり、気候変動危機を、金融危機と不可分の、緊縮政策や規制緩和の帰結ととらえており、1%の強者の都合のために引き起こされて、多数の大衆に犠牲を払わせるものであると指摘しています。

グリーン・ニューディールは、直接気候変動危機解決と取り組む事業であると同時に、反緊縮的財政出動によって持続的雇用を生み出すプロジェクトとして打ち出されています。財源は、量的緩和のために無駄に銀行に溜め込まれた資金を、欧州公共銀行債を通じて活用するとされています。

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<レポート 013> デフレ脱却時の「金利上昇のリスク」に関する統合的シミュレーション

本会共同代表朴勝俊関西学院大学教授によるレポートです。

<要約>

本稿では、デフレ脱却時の金利上昇によって生じる、いわゆる「出口のリスク」について、シンプルな国債評価額シミュレーションモデルを用いて、政府・日銀・民間の三部門について同時に定量的な検討を行った。日本経済を模した簡便なモデルによって、日銀と民間が保有する国債が、デフレ脱却に伴う金利上昇のせいでどの程度の評価損を出すのか、名目経済成長によって民間の可処分所得と政府の税収がどの程度増えるのか、を同時に把握したのである。その際、名目金利は名目成長率に等しいと仮定した。

その結果は以下のとおりである。まず政府は、デフレ脱却に伴って新規国債に対して最終的に3%のクーポン金利を支払わなければならなくなると想定されるが、それは税収の増加分から支払うことが可能であり、財政破綻は起こらない。

日銀はデフレ脱却期に、最大およそ40兆円の国債評価損を計上する。しかしこれはあくまで帳簿上の損失である。他方、金利が上昇すると、新発債の保有から日銀は着実に金利収入(貨幣発行益)を得ることになる(これは国庫納付金の形で政府に返納される)。

民間については、何よりも名目GDPの成長のメリットが、国債評価損や、納税額の増分を補ってあまりあるほど大きい(名目可処分GDP増分の、15年間の累計額は約1515兆円)。物価上昇を勘案しても実質可処分GDPは相当額のプラスとなる(累計516兆円)。デフレ脱却時の金利上昇によって、民間部門が大きな損失を蒙ることはない。

これらの結果を総合して言えることは、「出口」における「日銀破綻」、「財政破綻」、「民間の大損失」という話は、怪談話に過ぎないということである。デフレ脱却に伴う金利上昇によって、日銀と、政府と、民間がともに破綻の瀬戸際に追い込まれるということはあり得ない。それでも、もし国債の評価損が問題とされるようならば、日銀も民間経済主体も、資産として国債を帳簿に金額を記載する際に、額面額で記載することを許せば、懸念や混乱はほぼ根絶できるであろう。

レポート本文 report-013

シミュレーションを実施したエクセルファイル report-013Sup

梶谷懐さんセミナー「中国における反緊縮マクロ経済政策の実践ー1980年代から現在まで」

世界の反緊縮運動にとって、中国共産党独裁体制は決して目指したいようなものではないと思いますが、実は最も成功した反緊縮政策の実例は中国なのではないかとの声があります。その経済運営パフォーマンスの秘密はどこにあるのか。中国経済研究者の梶谷懐神戸大学教授からそれをうかがうセミナーを開催します。

ひとびとの経済政策研究会セミナー「中国における反緊縮マクロ経済政策の実践ー1980年代から現在まで」

日時:2019年6月18日 13時30分〜15時30分

場所:キャンパスプラザ京都6階 第1講習室

報告者:梶谷懐 神戸大学大学院経済学研究科教授

<レポート 012> MMTとは何か —— L. Randall WrayのModern Money Theoryの要点

本会共同代表朴勝俊関西学院大学教授によるレポートです。

最近急に話題になっている現代貨幣理論(Modern Monetary Theory)の代表的な教科書である、ランダル・レイ教授のModern Money Theoryを検討し、その内容を紹介、解説したものです。

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<翻訳>ブライアン・ロマンチャック「中央政府と中央銀行の会計を連結することは可能か?」訳修正

ブライアン・ロマンチャック「中央政府と中央銀行の会計を連結することは可能か?」(2017年6月5日、2019年3月12日修正、訳:朴勝俊)

日本では「統合政府」という訳語でも呼ばれる、政府と中央銀行のconsolidationとは、もともと親会社と子会社の「連結」を表す会計学上の言葉です。政府と中央銀行を連結して会計を作ると、両者の間の貸し借りは、相殺されて消えます。日本ではこのことについて扱っている教科書類は、浅田統一郎さんの『マクロ経済学基礎講義 <第3版>』ぐらいだと思いますが、欧米ではかなり議論が進んでいると思います。その中でも、これについて一からていねいかつ簡潔に説明した文章がありましたので、翻訳して、2017年6月にここにアップしました。

最近、この文書の著者の属するMMT(現代貨幣理論学派)が着目を集め出していますので、この際、訳文を再検討し、修正しました。この文書は、MMTの考え方について簡単に知るための文書としても役立ちます。

「MMTの立場からの政府に対する助言は、政府が公債を発行するのをやめ、発行するのはただ貨幣だけにすべきだということである。」

10月7日雨宮処凛×松尾匡トークイベントの動画リンク

お知らせがずいぶん遅くなってもうしわけありませんが、10月7日の雨宮処凛さんと本会松尾匡共同代表とのトークイベントは、一週間伸びたにもかかわらず盛会のうちに終わりました。

雨宮さんと、共催の「市民社会フォーラム」さん、「大阪を知り・考える市民の会」さんに深く感謝します。

こちらから当日の動画をご覧いただけます。

雨宮処凛×松尾匡「どうする?日本の経済と格差社会」(2018/10/7 大阪)

薔薇マークキャンペーン公式ホームページに「反緊縮経済政策モデルマニフェスト2019」を提供

1月17日から、本会主要メンバーも呼びかけ人に加わって、「薔薇マークキャンペーン」が始動しています。これは、4月の統一地方選挙、7月の参議院選挙で、主に野党の立候補予定者に、反緊縮の経済政策を公約の表に掲げてもらうことを呼びかけ、掲げてくれた候補には、認定マークの薔薇マークを出すという運動です。

本会では、薔薇マーク認定候補が経済政策公約を作る際の参考になるように、「反緊縮マニフェスト2017」をバージョンアップして、「反緊縮モデルマニフェスト2019」を作成し、薔薇マークキャンペーンの公式ホームページに掲載しました。

この内容は、薔薇マークキャンペーンの統一見解ではなく、同キャンペーンの呼びかけ人は個々の内容に責任をおっていません。また、このマニフェストを取り入れることは薔薇マーク認定の認定条件とは関係ありません。

「反緊縮モデルマニフェスト2019」

<レポート 011> ブレイク・イーブン・インフレ率(BEI)の推計値

本会共同代表朴勝俊関西学院大学教授によるレポートです。

ブレーク・イーブン・インフレ率とは、普通の国債の利回りと物価連動国債の利回りの差のことで、市場参加者のインフレ予想を表しています。人々がどんなインフレ予想を抱いているかは、景気の先行きを見通すときにも、政策の当否を検討するときにも、実質利子率の計算のためにも、非常に重要な変数なのですが、大勢の人々の頭の中を直接測るわけにはいきません。そのため、このブレーク・イーブン・インフレ率はそれを表すものとしてとても有益です。

しかし、ブレーク・イーブン・インフレ率や、その計算のもととなる物価連動国債の利回りのデータは、入手するのが簡単ではありません。

このレポートの著者は、日経NEEDSデータベースから入手した物価連動国債の価格の時系列データをもとにして、可能な限り精密にその利回りの月次データを推計し、さらにそれをもとにしてブレーク・イーブン・インフレ率の月次時系列データを推計しました。今後さまざまな実証研究に利用されることが期待されます。

推計方法の解説と推計結果の紹介をしているレポート本文と、物価連動国債の利回りやブレーク・イーブン・インフレ率の時系列推計値を載せた付属資料のエクセルファイルをアップしておきます。ふるってご利用ください。

レポート本体
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付属資料
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<レポート 010> 2040年までの人口動態と国民所得- シニアエリートは嬉しそうに脱成長を語るべからず -

本会共同代表朴勝俊関西学院大学教授によるレポートです。2016年の人口(1.268億人)と2040年の予想人口(1.109億人)、両年の人口構成、および2016年の国民可処分所得(431.6兆円)をベースに、生産年齢人口一人当たりの国民所得がゼロ成長する場合、一人当たりの国民所得がゼロ成長する場合、国全体の国民所得がゼロ成長する場合、生産性が年率2%で上昇する場合の四ケースについて、全国民に平等に分配されるとしたときの一人当たり国民所得を試算しています。

結論としては、生産年齢人口一人当たりの国民所得がゼロ成長する場合には、高齢者の生活を支えることは困難になり、わずか0.5%ないし1%の生産性の成長率の違いが、その後の国民所得水準を大幅に変えることになるということです。

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「反緊縮マニフェスト2017(案)」新デザイン版

本会が昨年発表した「反緊縮マニフェスト2017(案)」、これまで、ワード原稿版と、印刷用pdf版(10ファイル)の二版を本ブログにアップしましたが、このほど、有志のご賛同者がpdfファイル一本にまとめてデザインを一新してくださいましたので、公表いたします。
公約ごとにアイコンができていて、見やすくなっています。宣伝に、研究に、公約づくりの参考に、拡散いただければ幸いです。

最初に発表したときにも述べましたとおり、目標数値やスピードについては、政治家サイドで薄まることを若干織り込んだものとなっていますが、実現までのプロセスについては、段階を省かずに書いたものが多いつもりです。

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編集、作成いただいた、田川佳さんと、有限会社ツヴァイさんに深く感謝いたします。