<レポート017E> PEP DISCUSSION PAPER 2022-1E PARK Seung-Joon, “Eggs first or chickens? A re-examination of Granger causality between increase in government spending and GDP growth”

この前に投稿いたしました、本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授による、デービッド・アトキンソン氏への批判論文「タマゴが先かニワトリが先か? : 政府支出と GDP のグレンジャー因果性に関する検討」を、著者本人が英訳しましたので、ここに掲載いたします。冒頭のAbstractを引用しておきます。

Abstract
Based on data from various countries, a strong correlation was noted between the growth rate of government expenditure and the growth rate of nominal and real GDP, but there was some debate about the direction of causality. In this paper, a simple theoretical simulation model was first constructed to show that scatter plots similar to those actually observed can be drawn in either direction we assume the causality. We then tested Granger causality between general government expenditure, nominal GDP and GDP deflators using data from 1980 to 2021 for 38 OECD countries, and found that the results differed significantly from country to country at different time periods, with many cases suggesting a causality from growth to government expansion. However, as government expenditure statistics such as in the SNA are produced on an accrual basis, the point in time when the amounts are recorded may be later than when the orders are placed, which means that ‘spurious causality’ may be observed.
Therefore, we tried using the lead variable (a variable of later period) of public spending to test for Granger causality, and found that the results could change. To examine this point in more detail, we used quarterly data from the Japanese GDP statistics (1994-2021), namely nominal GDP, government fixed capital formation and government consumption. We found that in Japan since 2008 there was (practically) no causal relationship in neither direction without lead variables. However, with lead variables of government expenditure, one-way Granger causality from public spending to nominal GDP was observed.

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economic policy report 017E

<レポート017> PEP DISCUSSION PAPER 2022-1 朴勝俊「タマゴが先かニワトリが先か? : 政府支出と GDP のグレンジャー因果性に関する検討」

デービッド・アトキンソン氏が、政府支出とGDPの因果の方向性に関して、政府支出がGDPを決めるとする議論を批判し、「政府支出を増やせば経済は成長する」という主張は間違いだと主張しています。

それに対して、本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授が批判的検討を試みた論文を書きましたので、本会のディスカッションペーバーとして公表します。
以下、以下、本稿冒頭の「要約」部分を引用します。

要約 各国のデータに基づいて、政府支出の伸び率と、名目・実質GDPの伸び率の間には極めて強い相関関係が指摘されていたが、その因果の向きについて議論があった。本稿ではまず、簡単な理論シミュレーションモデルを構築して、因果の方向が明らかに政府支出から名目GDPに向かっている場合にも、その逆の場合にも、実際に観察されたものと似た散布図が描けることを示した。その上で、OECD加盟国38か国の1980年から2021年までのデータを用いて、一般政府支出と名目GDP、およびGDPデフレータの間のグレンジャー因果性を分析したところ、国によって時期によって結果が大きく異なったが、名目GDPから政府支出への因果性を示唆する結果が多かった。しかし政府支出の統計もSNAと同様に発生主義で作られるため、数値が記録される時点は発注の時点より遅れることになり、「見かけ上の因果性」が観察される可能性がある。そこで、政府支出のリード変数(後の時点の変数)をとってグレンジャー因果性の検定を行うと、結果が変わりうることが分かった。この点についてより詳細に検討するために、日本のGDP統計の四半期データ(1994年から2021年)を用いたところ、2008年以降の日本では、名目GDPから政府支出(政府固定資本形成あるいは政府消費)への影響が確認されることは全くなく、逆に説明変数として政府支出のリード変数を用いた分析では、政府支出を増やすと総需要が増える関係にあることが明らかとなった。

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economic policy report 017

* この、”「政府支出を増やせば経済は成長する」という主張は間違いだと主張しています” という部分は、当初、”政府支出を増やしてもGDPは増えないと主張しています” としていましたが、この朴論文の中にある表現に改めました。誤解を与える表現の仕方をしたことにつき、編集者として、アトキンソンさんにも朴さんにもお詫びもうしあげます。(2022年6月30日, 松尾匡)

<レポート016> 日本の物価上昇に対する、エネルギー価格上昇と円安の影響に関する試算

本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授が、日本の物価上昇に対して、海外でのエネルギー価格上昇の影響と円安の影響がそれぞれどのくらいあるのかを試算しました。以下、本稿冒頭の「要約」部分を引用します。

エネルギー経済研究所の産業連関分析試算を参考に、2019年を基準に、2022年5月ないし6月までのエネルギー価格および円安が、消費者物価指数(生鮮食品除く総合)に与えた影響を試算したところ、これらの効果を合わせた物価上昇分のうち、約28%が円安によるもので、約72%がエネルギー価格の上昇によるものと考えられる。したがって、利上げによって円安を是正しても、物価押し下げ効果は限定される。産業連関分析は、コストを完全に価格に転嫁するという想定に基づくため、実際の物価上昇は、生産者によるコスト吸収に応じて抑えられる。

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economic policy report 016

実質実効為替レートは高いほうがいいのか?

最近、日経が実質実効為替レート(REER)の安さを批判するような記事を連発していました。世間一般にも、専門家も含め、これが高いほうがいいとするような誤解が多いようです。

本会共同代表の朴勝俊関西学院大学教授が、こうした議論を批判する文章を書いていますので紹介します。実質実効為替レートとは何かということから、丁寧に説明しています。

朴勝俊「実質実効為替レートは高いほうがいいのか」

また朴共同代表は、このことについてのツイートも連投しています。その中には、BISのペーパーでの関連する説明の訳も含まれています。

https://twitter.com/psj95708651/status/1487635732365975555?s=20&t=GVSlvBW6HMAEivjOGbvkYg

私(松尾匡)からも一言言えば、デフレが名目の円高で相殺されないと当然REERは安くなります。デフレと同じだけ名目の円高になりでもしたら、デフレスパイラルも極まれりというところで、大変なことになります。デフレの間、REERが低下し続けてよかったのです。

しかも、そのかん貿易にしめる中国の割合が高くなっています。中国のインフレが名目の元安で相殺されない限り、やっぱり円の実質実効為替レートは下がります。

人民元は長期的に高まっています。このかんたくさん貿易黒字を出していて、ほっといたら元がすごく高くなるところ、中国の通貨当局は、そうならないように元を作って売って外貨を買って、元高のスピードを和らげてきたので、ゆるやかな元高とインフレがともに起こってきたわけです。

そしたら円の実質実効為替レートは安くなって当然です。

オンラインセミナー「中小製造業企業の能力構築・競争力と価格競争:欧州・北欧イノベーション政策から考える中小企業政策への含意」

コロナ以降、政府側シンクタンクや政府の諮問会議から、中小企業の「新陳代謝」を進め、「生産性」を高めるところだけを選択支援すべきだと大合唱が起こっています。典型例は、日本の生産性が低いのは小規模な企業が多すぎるからだとして、中小企業半減論を唱えるデービッド・アトキンソンさんの議論です。この人をブレーンとして仰いできた菅首相は、就任後、俄然こうした路線に乗り出して、そのための法律や税制の整備を始めています。

しかし、日本の中小企業ははたして本当に生産性が低いのでしょうか。単位労働あたりの付加価値が低いことは、規模が小さいせいで技術力が劣っていることの現れなのでしょうか。

名古屋工業大学の徳丸宜穂教授は、福祉とイノベーション創出を両立させる、新自由主義的でない道を求めて北欧(フィンランド)の実例を検証し、地域経済の中で技術や新製品や雇用を生み出す仕組みを、日本や東アジアの実例から分析してきました。

https://www.tokumarunorio.info/

この際、徳丸先生から、愛知県の中小製造企業の調査分析から得られた知見と、フィンランドの中小企業政策のお話をおうかがいし、菅・アトキンソン路線の当否を検討する手かがりとしたいと思います。

中小製造業企業の能力構築・競争力と価格競争——欧州・北欧イノベーション政策から考える中小企業政策への含意

お話 徳丸宜穂さん(名古屋工業大学)

日時 2021年3月31日(水) 14時から15時30分

受付締め切り当日正午

セミナーはズームを用いて行います。参加ご希望のかたは、検索できるように必ず表題に「PEPセミナー参加希望」と書いて、下記問い合わせ先メールアドレスにご通知ください。当日の開始およそ1時間前にZoomのURLをお送りします。

お問い合わせ: 松尾匡 matsuotadasu[at]gmail.com            (atはアットマーク)

松尾匡守山連続講演資料

本会共同代表の一人の松尾匡立命館大学経済学部教授が、「市民の会しが」さんからのご依頼で、2020年2月から3月にかけて守山市で毎週行った四回連続講演「「市民と野党」が勝つための経済政策」の講演資料を公開します。

パワーポイントファイルと、それをpdfにしたものからなります。

第1回「なぜ安倍政権に野党が勝てないのか」
第2回「欧米左派ポピュリズムの反緊縮政策とその背景」
第3回「消費税不況後の体制側ビジョンと総選挙に向けた対案」
第4回「さまざまな疑問に答える」(円が暴落するのでは? 国債が暴落する? 金利が上がったとき困らない? ハイパーインフレにならないの?等)

下記リンク先のファイルに格納していますのでダウンロードしてください。
https://drive.google.com/drive/folders/1xPcps76mpUag5PFeIXn7p5WCS4bolpAm?usp=sharing

吉岡真史さんオンラインセミナー「財政のサステイナビリティについて考える」

吉岡真史さんは、長年内閣府で経済分析の仕事をされてきたかたで、折々の日本経済分析や旺盛な書評やタイガースの応援記事のブログは一部に根強いファンをお持ちです。

http://pokemon.blog2.fc2.com/

この吉岡さんが、この四月から、立命館大学経済学部に日本経済論の教授として赴任されました。

コロナ禍もあって半年以上止まっていました本会のセミナーですが、今後吉岡さんに末長いご協力をお願いする機会として、下記のとおり、オンラインでご研究の報告をお願いすることにしました。

財政のサステイナビリティについて考える

お話 吉岡真史さん(立命館大学)

日時 20201027日(火)午後5時~

受付締め切り1027日午後12:00

セミナーはZoomを用いて行います。

テーマは、財政の持続性をめぐる諸議論、特に動学的非効率性の問題といわゆるMMT命題について検討するものです。詳しくは次のリンクをご覧ください。

Yoshioka_sustainability

参加ご希望のかたには、当日正午までに以下のURLにアクセスして、別ウインドウで開く申し込みフォームから、お名前とメールアドレスを登録してください。当日の開始およそ1時間前にZoomURLをお送りします。

https://forms.gle/baU9HckYRYh3dDiN7

お問い合わせ: 松尾匡 matsuo-t[at]ec.ritsumei.ac.jp             (atはアットマーク)

<翻訳> ジェイミー・ガルブレイス「米国がコロナウィルスに打ち勝つ方法」「政府は次に何をすべきか」

米国のポストケインズ派の重鎮であるジェイミー・ガルブレイス氏による、コロナウイルスとの戦いのための断固たる政策提言です。
これまで日本で論じられることのなかった、医療のための政府資金提供、動員、流通システムを維持する政策、人々を困窮から救う策など、幅広い政策がコンパクトに論じられています。
ジェイミーさんは、かのジョン・ケネス・ガルブレイスの息子で、バルファキス『黒い匣』ではヤニさんの米国の相棒として出てくる方です。ご本人の承諾を得て掲載いたします。
Galbraith2020_COVID19

翻訳に際しては、翻訳家の早川健治様より貴重なご助言を賜りました。ここに御礼申し上げます。
早川健治様の翻訳
エレン・ブラウン『負債の網 お金の闘争史・そしてお金の呪縛から自由になるために』那須里山舎、2019
アンドリュー・ヤン『普通の人々の戦い AIが奪う労働・人道資本主義・ユニバーサルベーシックインカムの未来へ』那須里山舎、2020

<レポート015>商品貨幣論および外生的貨幣供給説の誤り -『 マンキュー マクロ経済学』 を例として

シェイブテイル&朴勝俊
2020年 3月 18日

大学で用いられているマクロ経済学の教科書は、ほとんどが「 商品貨幣論 」 と 「 外生的貨幣供給説 」 に立っています。 これらの考え方は、貨幣量は有限であり、預金の結果として貸出が可能となる、言い換えれば家計の貯蓄が企業や政府の債務を支える という間違った議論につながります。現在の主なマクロ経済理論が現実をうまく説明できないのは、この 2つの考え方に立脚しているからだと考えられます 。
本稿では、大学等で広く使われている教科書のひとつである『マンキュー マクロ経済学 I 入門編 (第 3版 )』 に記された貨幣論を批判的に検討し、その 誤りを明らかにします 。

ダウンロード How-Mankiw-is-wrong

田中信一郎先生のご質問にお答えして

田中信一郎先生が書かれた良書『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない』に関して、私が紹介のツイートをしたことについて、田中先生からツイートでご質問を頂いていることに、ある方からお知らせいただいて気づきました。文字数が制限されたツイッターは回答に向かないので、以下、誤解が生じないよう、先生からのツイートを全て引用した上で、ご質問にお答えさせていただきます。

Answer_to_mr_Tanaka