地方財政経済セミナーのレジュメとスライド(追記:動画リンク)

5月1日に実施しました地方財政経済セミナーは、約20名のご参加をいただき、質疑が大変盛り上がり、充実して終わりました。終わってからの懇親会も盛況でした。講師を引き受けてくださいました井奥まさき高砂市議会議員、ご参加いただいたみなさんに深く感謝します。ありがとうございました。

井奥さんから、当日のレジュメとスライドファイルが送られてきましたのでアップします。下記リンクよりダウンロードしてください。

レジュメ(MSWord) IokuSeminar

スライド(pdf) 20180501IokuSeminar

※ スライドのパワーポイントファイルは下記リンク先におきました。ご自由にダウンロードしてください。
http://shiryouoki.sdbx.jp/PEP20180501/

追記:当日の講演動画がユーチューブでアップされました。下記リンクよりご覧ください。
https://youtu.be/1aTDGsE90Xk

(本投稿は、下記投稿者表記にかかわらず、「ひとびとの経済政策研究会」公式の掲載です。)

欧米反緊縮左翼政治勢力の財政金融政策論総ざらえ

お世話になっています。本会共同代表の一人、松尾匡です。連投失礼します。

この春から前期の間、大阪にあります「労働学校アソシエ」さんで、週一回の講義をさせてもらっています。

その第3回目の講義で使った資料が、欧米反緊縮左翼政党・政治家などの財政・金融政策論について、愚見の知る限り集めたものでした。カナダ、ポルトガル、スウェーデンで実際にとられた反緊縮政策の実績も紹介しています。

ご関心のあるかたもいらっしゃると思いますので、拙ホームページにアップしました。下記のリンク先よりダウンロードしてください。

http://matsuo-tadasu.ptu.jp/AssocieLec18-03.pdf

新刊書ご紹介

お世話になっています。本会共同代表の一人、松尾匡です。

このほど、ブレイディみかこさん、北田暁大さんとの鼎談書『そろそろ左派は<経済>を語ろう——レフト3.0の政治経済学』が亜紀書房から出版されました。

あとがきでも書きましたが、編集者の人がこの題名をつけたとき、労働問題や貧困問題やグローバリズム批判とかしている人から、「俺はもう語ってる」と怒られると言って、数日深夜に及ぶ抵抗をしていたのですが、販売しろうとの思いつくありとあらゆる対案は却下されてしまい、結局挫折しました。なんとか食い下がって<経済>と山カッコをつけてもらって妥協したのですけど。…ここに、縮小志向や財政均衡志向と縁を切って、人々の雇用を拡大しもっと安心で豊かな暮らしを約束する政策を語ろうという意味を込めたつもりです。

以下に、ブレイディみかこさんによる、本書のまえがき部分を、本人と編集者の同意を得て転載します。ご関心をお持ちになりましたら、ぜひご入手いただき、ご検討ください。

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はじめに 経済にデモクラシーを!
ブレイディみかこ

昨年、クリスマス前の英国の書店に堆く平積みされ、多くの人々が友人や家族にプレゼントしていた本があった。わたしも目の前で、大学生ぐらいの若い女の子が三冊まとめてレジに持っていく姿を見た。その本の題名は『Talking to My Daughter About the Economy : A Brief History of Capitalism』といい、著者はギリシャの元財務相で経済学者のヤニス・バルファキス。一〇代の娘のために彼がやさしく経済について語るというコンセプトで書かれた本だ。そのまえがきには、こんなことが書かれている。

「誰もがきちんと経済について語ることができるようにするということは、善き社会の必須条件であり、真のデモクラシーの前提条件だ」

他方、スペインには「欧州の新左派」と呼ばれるポデモスという政党がある。その党首、パブロ・イグレシアスは「経済にデモクラシーを」という言葉の提唱者だ。この言葉のとおり、欧州の左派の間ではデモクラティック・エコノミーというコンセプトがさかんに議論されている。

「きっとそれは左派っぽい経済改革のことで、貧困対策の分配をきちっとやって弱者を救いましょうとか、ブラック労働をなくしましょうとか、そういうことを言っているんでしょう」ぐらいに思っていると、ポデモス提唱の経済政策を見るとびっくりするだろう。「EUの安定・成長協定にフレキシビリティーを要求する」「欧州中央銀行の財政ファイナンスを妨げるルールの変更」「スペイン憲法の財政均衡ルールの廃止」と、がっつりマクロなことが書かれているからだ。

前述のヤニス・バルファキスもポデモスと同様の経済政策を唱えているし、ついに支持率で与党を抜いた英国労働党の党首ジェレミー・コービンも彼らと志を同じくしている。

こうした欧州の左派が主張するデモクラティック・エコノミーの概念は、経済活動に関する決定権を社会で広く分散し、人々が自らの人生に主導権を持って金銭的安定を確保できる経済を実現しようという考え方だ。政治制度としての民主主義がある程度確立されたとしても、経済的不平等が存在すれば、民主主義は不完全である。その経済的なデモクラシーの圧倒的な遅れこそが、トランプ現象やブレグジット、欧州での極右勢力の台頭に繋がっているとすれば、いま左派の最優先課題が経済であることは明確である。これが欧州の左派の共通認識だ。

さて、そうした認識を持った左派がダイナミックに活動している欧州に住むわたしが、日本に帰省すると違和感をおぼえることが往々にしてある。

まず、左派の人があまり経済に関心を持っていない。というか、経済を語ることは左派の仕事ではないと思っているように感じられるときがある。また、「経済成長は必要ない」という非常に画一的な意見を耳にすることが多い。

「では貧困や格差の問題には興味ないの?」と聞くと「分配は重要」という答えが返ってくるのだが、「成長とかもうあるわけがない」「これからの日本は内面を豊かにせねばならない」と彼らが言う社会で、どうやっていま苦しんでいる人々のために実質的な分配をおこなっていくのかは不明瞭である。

この経済に対するぼんやりした態度は、近年の欧州の左派とは真逆と言ってもいい。

まあそれでも欧州に追随することはないのだし、日本には日本独特の左派がいてもいいが、しかしそうも言っていられなくなるデータがある。スコットランドのグラスゴー大学教授アンドリュー・カンバースが二〇一七年に発表した、まさにデモクラティック・エコノミーの達成度合いを測る指数と言える「経済民主主義指数」のリストを見ると、日本はOECD加盟の三二ヶ国の中で、下から四番目なのだ。日本の下には債務と緊縮で疲弊しているギリシャがいて、その下にはトランプの米国がいる(ちなみに最下位はスロバキアだった)。

これは何を意味するのだろう。つまり、日本は世界で経済的に最も不平等な国の一つであり、「経済にデモクラシーを」後進国であるということだ。日本人の家計金融資産が史上最高の一八三二兆円と報じられている一方で、家庭を持ったり子どもをつくったりするのはエリートのすることだと思う若者たちが存在し、就職氷河期に社会に出ることを余儀なくされたロスジェネ世代が忘却され、シングルマザーたちが毎月の生理用品を買うために食事を抜いているということだ。

こんな社会に生きる左派を名乗る人々が「経済に興味がない」と言うのは、日本独自の風土とか歴史的事情とかいうより、単に無責任なのではないだろうか。

日本の左派の人々と話していると、彼らの最大の関心事は改憲問題であり、原発問題であり、人種やジェンダー、LGBTなどの多様性と差別の問題だ。こうしたイシューは社会のデモクラシーを守るために重要だと考えられているが、経済はデモクラシーとは関係のない事柄だと思われている。これは日本があまりにも長い間、なんだかんだ言っても自分たちはまだ豊かなのだという幻想の泡に包まれてきたせいもあるだろうし、豊かだった時代への反省と反感が強すぎるせいかもしれない。

だが、これほど歴然と経済にデモクラシーが欠如している国であることが明らかになっているのに左派が経済に興味がないという状況は、国内経済の極端な不均衡が放置されている事実ときれいに合わせ鏡になっているように思える。豊かだった時代は良くなかったと思う人々もいるかもしれないが、豊かだった時代を知らない世代もいるし、豊かだったはずの時代から現在まで一貫して貧しい人々もいる。

そして左派とは本来、社会構造の下敷きになっている人々の側につくものであり、不公平は不可避だという考え方を否定するものではなかったのか。

「誰もがきちんと経済について語ることができるようにするということは、善き社会の必須条件であり、真のデモクラシーの前提条件だ」とヤニス・バルファキスは書いた。

欧州の左派がいまこの前提条件を確立するために動いているのは、経世済民という政治のベーシックに戻り、豊かだったはずの時代の分け前に預かれなかった人々と共に立つことが、トランプや極右政党台頭の時代に対する左派からのたった一つの有効なアンサーであると確信するからだ。

ならば経済のデモクラシー度が欧州国と比べても非常に低い日本には、こうした左派の「気づき」がより切実に必要なはずだし、時代に合わせて進化を遂げようとしている海外の左派の動きを「遠い国の話」と傍観している場合でもないだろう。わたし自身にとり、間接的、直接的に『ヨーロッパ・コーリング』以降の執筆活動の核であり続けたこのテーマを、経済学者の松尾匡さん、社会学者の北田暁大さんと日本で語り合う幸運な機会に恵まれた。この本は、英国在住の市井のライターが、お二人から多くの貴重なことを教えていただいた時間の記録でもある。

本書が、日本に「真のデモクラシーの前提条件」をつくるための助けとならんことを祈っている。

地方財政経済セミナーのご案内

「ひとびとの経済政策研究会」では下記のセミナーを行いますので、ご関心のあるかたはご参加ください。

ひとびとの経済政策研究会主催 地方財政経済セミナー

「日本の地方財政・地方経済はどこが問題なのか」
講師:井奥まさき(自治体議員政策情報センター調査部、兵庫県高砂市議)
日時:2018年5月1日18:30-20:30
場所:キャンパスプラザ京都(JR京都駅から徒歩5分、ビックカメラ前)、6階第1講習室
http://www.consortium.or.jp/about-cp-kyoto/access
入場無料

私たちは、立命館大学経済学部松尾匡教授ら京都近隣の研究者による研究グループ「ひとびとの経済政策研究会」です。私たちはこのかん、欧米反緊縮経済政策論の紹介や、日本政府・日銀のとるべき反緊縮経済政策の提言に取り組んできました。他方、先日の京都府知事選挙で福山和人候補が反緊縮政策と解釈できる政策を掲げて善戦したように、地方レベルにおいてもこうした政策を求める潜在ニーズは大変大きなものがあると予想されます。しかし、貨幣発行のできる中央銀行を持たない地方政府では、財源問題など、中央政府の場合よりも厳しい制約を考えなければなりません。それゆえ、税制・交付金などの様々な制度や、地方経済のおかれた具体的な条件について専門的知識がない状態では、なかなか政策を論じるまでには至りませんでした。

そうしたところ、このたび、緑の党の高砂市議会議員の井奥まさきさんが、地方経済・地方財政のおかれた問題に精通しておられるうえ、それをふまえて、反緊縮的な自治体政策と、それを支えるための税制や緩和マネー活用法についてのアイデアをお考えになっていることを知りました。そこで、ぜひじっくりとご教示いただく機会をもちたいと考え、このセミナーを企画しました。地方経済、地方財政の問題や自治体のとるべき経済政策について関心のあるかたは、この機会に私たちといっしょに勉強されることを呼びかけます。

お問い合わせ matsuo-t@ec.ritsumei.ac.jp (松尾匡)

<翻訳>ル・フィガロ記事「公的債務:インフレーションに賭けるメランション」(4/5訂正)

協力者の輝野洪瑞さんが、本ブログ昨年4月22日の記事「誰かメランション政策を訳して下さい」に応えて、フランスの『ル・フィガロ』ウェブサイトの2017年4月10日のギョーム・ポワンさんの署名記事

Dette publique: Mélenchon fait le pari de l’inflation

を、翻訳してくださいました。どうもありがとうございます。下記リンクよりダウンロードしてください。

公的債務:インフレーションに賭けるメランション

これによればメランションさんは、すでに2014年から「債務など返さなくてよい」として欧州中銀による加盟国債の買取を主張していましたが、昨年の大統領選挙においても、欧州中銀が公債を買い取ることで4〜5ポイントのインフレを実現することを主張しています。そして、欧州中銀が買い取った国債は永久債化すると言っています。

※ 3月29日にアップした原稿に対して、訂正版が送られてきましたのでアップします。インフレ率の数値について、「パーセント」とあったものを「ポイント」と修正したこと、欧州中銀が買い取った国債を永久債化すると言ったのがメランションの経済顧問とされていたのがメランション本人と修正したことなどが主な修正点です。(2018年4月5日)

レポート二本修正しました

本会の次のレポートに訂正箇所がありましたので、修正しました。それぞれリンク先のエントリーをご覧ください。

report-006 <経済政策提言レポート> 普通のひとびとが豊かになる景気拡大政策——安倍自民党に野党が勝つために

report-007<批評レポート> 水野和夫氏の脱成長論を鵜呑みにすると左派・リベラルの政治勢力は自滅する

report-006は訂正箇所を含む部分を、前回投稿のエントリーでお知らせした『消費者法ニュース』の記事として掲載いただいたので、そちらもご修正ください。

お手数をおかけしますことおわびいたします。

「消費者法ニュースNo.114」特集記事が読めます

多重債務問題などに取り組んでおられる弁護士さんや司法書士さんの雑誌、『消費者法ニュース』の最新114号で、「貧者のための経済政策——選択すべき経済政策とは」という特集が組まれています。ここに、私たち「ひとびとの経済政策研究会」が昨年夏の民進党代表選挙にあわせて発表した政策提言レポート「普通のひとびとが豊かになる景気拡大政策——安倍自民党に野党が勝つために」の一部(後ろ三分の一)を転載していただきました。レポートの残りの部分の内容については、私、松尾匡が、その後得られたデータなどを補足しながら別の記事にまとめています。そのほか、編集者の青木弁護士、森永卓郎さん、山本太郎さんが下記のように寄稿なさっています。みなさん、ぜひ世に知らせるべき、すばらしい記事を書いていらっしゃいます。

『消費者法ニュース』No.114 目次より

特集2:貧者のための経済政策―選択すべき経済政策とは―

  • 経済政策を語ろう…青木歳男(弁護士[福岡])
  • 我々は安倍首相の景気作戦に負けている!…松尾匡(立命館大学経済学部経済学科教授)
  • 普通のひとびとが豊かになる景気拡大政策―安倍自民党に野党が勝つために―…松尾匡(ひとびとの経済政策研究会共同代表 立命館大学経済学部教授)・朴勝俊(ひとびとの経済政策研究会共同代表 関西学院大学総合政策学部教授)・ひとびとの経済政策研究会
  • 日本の財政は世界一健全だ…森永卓郎(獨協大学経済学部教授)
  • 山本太郎が実行したい最低限の政策…山本太郎(参議院議員[自由党])

この特集の全文pdfを、青木先生が、このブログに掲載してほしいとおっしゃって提供してくださいました。森永さん、太郎さんには了承済みとのことですので、ここに公開します。下記より、ダウンロードしてください。

SyouhisyahouNews

※ 本会のレポート(report-006)の、この雑誌に収録いただいた部分の中に一箇所誤記がありました。ヤニス・ヴァルファキスらの提言 “A Modest Proposal” を「最も穏健な提案」と訳していますが、もちろん「穏健な提案」の間違いです。『消費者法ニュース』の関係者のみなさんはじめ、読者のみなさんにおわびいたします。私松尾が、元ネタと思われるスウィフト(この名前も覚えていなかったが)のModest Proposalを、間違えて「最も穏健なる提案」とすっかり思い込んで記憶していたためにうっかりしてしまいました。英語力のなさが露呈して、お恥ずかしいかぎりです。(2018年3月2日 松尾匡)

<レポート 009> 女性議員比率と社会の幸福度に関する計量分析

緑の党共同代表の長谷川羽衣子さんが、OECD35ヵ国の「幸福度」を「一人当たりGDP」と「女性議員比率」で回帰分析した研究レポートに、「ひとびとの経済政策研究会」で、記述の正確さを増すための本質的でない補足をしたものです。「一人当たりGDP」と「女性議員比率」のどちらも、「幸福度」との間に有意な正の関係があることが実証されました。それをふまえて、因果関係と政策的含意について考察しています。(記事文責 松尾匡)

report-009

「反緊縮経済政策マニフェスト案」印刷用

10月20日投稿のエントリーでお知らせしました「反緊縮マニフェスト2017(案)」を、「e未来の会」さんが、とても美しい印刷版にしてくださいました。

1ページずつのダウンロードで恐縮ですが、ぜひプリントアウトしてご利用ください。

Manifesto01
Manifesto02
Manifesto03
Manifesto04
Manifesto05
Manifesto06
Manifesto07
Manifesto08
Manifesto09
Manifesto10

※ 第3章、上記ファイルManifesto05とManifesto06に間違いがありましたので訂正いたします。

Manifesto05下から20行目:(誤) 2015年までに、消費税を19%にまで → (正) 2025年までに、法人税を25%にまで

Manifesto05下から2行目:(誤)  一律15%しか税金が → (正) 一律20%余しか税金が
(15%は所得税で、住民税5%などもかかるので合計するとこうなる。)

Manifesto06上から21行目:(誤) 4800万円の基礎控除 → (正) 法定相続人3人の場合で4800万円の基礎控除
(相続税の基礎控除は3000万円プラス600万円×法定相続人数)

2018年9月1日の松尾匡の講演で、会場の参加者のかたからご指摘を受けました。ありがとうございました。つつしんでお詫びし訂正いたします。(2018年9月3日)